第4章 それぞれの帰り道
「…なんて、言うのは簡単だけど」と、困ったように彼女は付け加えた。
「いや、みなみさんの言う通りだよ」
ついさっき、自分でも言ったじゃないか。
“つまるところは誰だって一人の人間で、その中でお互い上手く折り合いをつけたり自己主張してかなきゃいけない”
今の旭が、本当は何を考えているのか。
烏野が、どれだけ旭を必要としているか。
それを伝えた上で、旭が本当にバレーを辞めるつもりなら、俺は素直に諦めようと思った。
「…きっと自分に言い訳してたんだ。もしアイツがバレーを嫌いになったんなら、たとえ俺が無理に誘ったって、またあいつの負担になるんじゃないかって。それがすごく怖かったんだ」
「…大丈夫よ、孝支君なら」そう言って、みなみさんは優しく微笑む。
「ちゃんと、相手の事も気遣える人だもの」
彼女の言葉は不思議と心強く響いた。
旭と西谷が衝突して以来、みんなその件について話すことを避けてきた。大地は何もかも知った上で、本当にギリギリの状態になるまで本人の意志に任せるタイプだし、田中も猪突猛進に見えて、なんだかんだで踏み込んではいけない一線はきちんと守るタイプだ。だからこそ、お互いに触れないできたし、俺も触れられなかった。
ずっと抱えたモヤモヤとした気持ちが、少しだけ晴れた気がした。そっと、背中を押してもらったような、ずっと足踏みしていた場所から数歩だけ前に進めたような、そんな気分だった。
「来週落ち着いたら、話してみるよ、旭と」
「うん。東峰君が戻ってきてくれるといいね」
「だな。また紹介するよ、あと西谷も!」
「うん」そう頷いたみなみさんが、急に何かを思い出したように笑った。
「そーいえば昔は、今日みたいに私が落ち込んでたら、よく手を繋いでくれたよね」
「えっ…」
俺が驚いてみなみさんを見ると、彼女とパチリと視線がぶつかる。「手を繋ごう」という意味に俺が解釈したと思ったのか、みなみさんは慌てて胸の前で両手をぶんぶん振った。
「あ、む、昔の話ね…!もう孝支君が大きくなっちゃったし、懐かしいな、って思い出しただけで…」
「ちょ…、なに自分で言って照れてんだよ!」
「だ、だだだだって…」