第4章 それぞれの帰り道
“思いやりのある人”
その言葉が、ズキリと心に刺さる。普段なら、人にこんなふうに言われたら嬉しくて調子に乗ってしまうんだろうけど、今の俺には鉛みたいに重かった。
「全然そんなことねーべ…」
急にトーンが落ちた俺の声に気付いたのか、みなみさんがこちらを見上げた。
「俺もさ、自分を優先しちゃうことあるよ。ホント、周りのことなんか全然助けらんなくてさ…。情けなくなるよ…」
「何かあったの…?」
みなみさんが心配そうに俺の顔を覗き込む。長いまつげが街灯の光に照らされて、彼女の頬に影を落としている。真っ直ぐ俺を見る瞳は深く澄んでいて、俺も、彼女の前では変な強がりとか、嘘とか、そんなものは一切通じない気がした。
俺は、バレー部の抱える問題を打ち明けることにした。ずっと、大地にも田中にも、相談することを避けていた問題だ。
烏野バレー部には、他にあと二人ーーー
東峰旭と、西谷夕という選手がいること。
前の大会で他校に追い込まれた時、俺が焦りのあまりエースの旭にボールを集中させてしまったこと。
試合に敗れ、責任を感じた旭はすっかり自信を無くしてしまったこと。
それを見かねた西谷が、旭と喧嘩になって謹慎を食らい、旭も部活に来なくなってしまったこと…。
「もうちょっと気に掛けてれば、こんな事にはならなかったはずなんだ。試合で俺が旭に頼りきりになって、全然周りが見えなくなって…。はは、これじゃ、影山のこと悪く言えないよな…」
俺は情けなく笑う。
それまで黙って聞いていたみなみさんが口を開いた。
「それ以来、孝支君は東峰君と話したの?」
「廊下ですれ違ったりはするけど、向こうも避けてるみたいだし、ちゃんとした会話は出来てないんだ…。LINEで何回かメッセージを送ったりはしたけど、反応もなくて…。連絡取ること自体、もう嫌になったのかもな」
「それこそ、孝支君がもっとわがままになってもいいと思う」
「え…?」
「孝支君は、また東峰君とバレーがしたいんでしょう?西谷君だって、そんな風に喧嘩別れしたままじゃ絶対に嫌だと思う。それなら、ちゃんとその気持ちを伝えたらいいんじゃないかな…。もしも東峰君が本当にバレーをやりたくないのなら、その気持ちも含めて、きちんとお互いに話さなきゃ」