第4章 それぞれの帰り道
何でもいいから少しでも彼女を救いたかった。でもまだ幼かった俺は、そのすべを知らなかったんだ。だから、ただ黙って彼女のそばに寄り添った。力を失ったまま投げ出されていた彼女の手をそっと握ると、彼女もギュッと握り返してくれた。
「きっと、」と隣を歩く彼女が口を開く。
「きっと、心のどこかで考えちゃうの。もうお父さんのことは好きじゃなくなったの?って。あれからもう5年も経つし、社会人にもなったし…私、自分では立ち直ったつもりだったけど、でも全然そうじゃなかったみたい」
あの時と同じように、俺は彼女に手を伸ばしかけ、そして数センチ手前で引っ込めた。やり場を失った手の平を、さり気なくズボンのポケットに突っ込む。
「俺なんかが言えたことじゃないのかもしれないけど…」
俺は言った。一つ一つ、言葉を探りながら。
「みなみさんの気持ち、おばさんに伝えてもいいんじゃないかな…。俺なら、みなみさんが嫌がることはしたくないし、嫌なら嫌だって言ってほしい。もちろん、感情の押し付け合いじゃなくおばさんの気持ちも含めてさ。父親とか母親だって、俺達の前では一生懸命そう振る舞ってるだけで、つまるところは一人の人間なわけだろ?その中で、お互い上手く折り合いをつけたり自己主張してかなきゃいけないと思うんだ」
みなみさんが「うん」と小さく頷く。
「恋人ができたからって、気にせず今まで通りおばさんに甘えればいーべ。嫌なら嫌だって言ってさ。…もちろんおばさんだって、これからは自分のことを考えていく時期なのかもしれないけど」
「…そうだね」
ぐす、と鼻をすする音がした。
俺は黙って彼女の言葉を待った。
やがてコクコク、と頷いて彼女が言う。
「…うん、そうだね」
潤んだ瞳で俺を見上げ、微笑んだ。