第4章 それぞれの帰り道
「えっ、くれんの?ありがと…!」
「わざわざ待っててくれたお礼っ」
そう言って「帰ろっか」とくるりと背を向けた。
俺はみなみさんから少し離れて歩いた。ちょうど車が一台通り抜けられそうな距離だ。生徒と教師が仲良く並んで帰るなんて、あまり見られない方がいいだろうから。
離れて歩く俺に気付き、みなみさんは申し訳なさそうに眉を下げて言った。
「ごめんね、気を遣わせちゃって…」
「別にいーべ。むしろ勝手に待ってたのは俺の方なんだし」
「ありがと」と微笑んで、「冷めないうちに食べよっか」と前に向き直った。
袋の中にはほかほかの中華まんが一つ。彼女は早速袋から取り出して美味しそうにかぶりついた。俺もそれに食らいつく。
「ん、旨い!」
「ね!いまならもう一個いけるかも」
「あんまし食いすぎると太るぞ〜」
「今日は頑張ったからいいの!もう一つ買っておけばよかった!」
そう言ってペロリと平らげる。「美味しかった」と笑う彼女に、俺は今日一日中気になっていたことを尋ねてみる。
「…あのさ、みなみさん」
「ん、何…?」
「今日何かあったの…?」
彼女は目を見開いて俺を見つめる。
「な、なんで…?何も…ない、けど…」
肩にかけた鞄をかけ直し、みなみさんは目を伏せた。俺は周りに人目がないのを確認してから、彼女に駆け寄ってその距離を詰めた。二つ並んだ影が、目の前の地面に長く伸びている。
ふわりと吹いた夜風が、彼女の髪を揺らす。俺は目線の下にある彼女の頭にそっと触れた。彼女はぴくりと肩を震わせ、立ち止まった。俺は言った。
「相変わらず嘘が下手だよな、みなみさんは」
「…どうして?」と、彼女は俺の方は見ずに、足元に視線を落としたまま小さく呟く。
「どうして分かるの…?」