第4章 それぞれの帰り道
「まだ帰ってなかったの?他のみんなは?」
「あ、あぁ…ついさっきまでここで話し合いしてたんだ。みなみさんもちょうど来る頃かなって思ったから、俺だけ残って待ってた」
俺は慌てて入力したメッセージを消去して立ち上がった。スマホを乱暴に鞄に突っ込む。
「みなみさんも、遅くまでお疲れ様」
「ん、ありがと…!」
仕事を終えたからか、いつもは一つに束ねた髪をほどいている。長い綺麗な髪が、彼女の動きに合わせてサラサラと流れた。
「今日はわざわざ見に来てもらったし遅くなっちゃったからさ、一応送ってこうと思って」
「そんな、気を遣わなくてもいいのに…」
「いーや、ちゃんとみなみちゃんを助けてやんなさいよって母さんに言われてるんだ。アンタ小さいときお世話になったんだから、って。何かあったら俺が母さんにどやされるべ」
「ふふ、おばさんたら…。じゃあお言葉に甘えようかな」
そう言って、「…なんだか懐かしいね、こういうの」と目を細めた。
「孝支君が小学生の時は、こんな風に待ち合わせてよく一緒に帰ったよね」
まだ散らずに残っていた桜の花びらが、風に吹かれてひらひらと舞った。乱れた髪を耳にかける仕草が妙に色っぽくて、俺は思わずドキリとしてしまう。それを誤魔化すように、俺は短く「…だな。」と答えた。
不意におりた小さな沈黙を振り払うように、「じゃあ、帰るべ」と俺が言った次の瞬間、返事の代わりにググゥゥーー、と間の抜けた音が鳴った。目の前のみなみさんが慌ててお腹をおさえ、恥ずかしそうにうつむく。
「ご、ごごごめん…!お腹空いちゃって…」
「…ははははっ、盛大に鳴ったな〜!!」
「仕方ないでしょー、中途半端な時間に食べちゃったんだから…!」
「ちょっと待ってて!」と言ってそのまま坂ノ下商店に入っていき、レジの前でしばらく迷ったあと何かを注文する。店を出てきた彼女の手には“中華まん”と書かれた袋が二つ握られていた。俺にその片方を差し出して言う。
「はいっ、孝支君の分」