第4章 それぞれの帰り道
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帰り道に数人で坂ノ下商店に寄り、来週の練習試合のポジション決めを終えて店を出る。俺は適当に言い訳をしてひとり店の前に残り、みんなに手を振った。
夕方5時50分。もうみなみさんは帰ってしまっただろうか。こんな時、お互いに連絡しあえればいいんだけど、残念ながらその手段がない。電話のない時代に生まれた人は、こんな風にいちいちやきもきしながら相手を待っていたんだろうか。こんな事なら、連絡先を聞いとくんだった…。
とりあえず、俺は20分だけ待つことにした。
店の脇に置かれた、ペンキの剥がれかけたベンチにもたれて俺は空を見上げた。空は遠くの方から藍色に染まりかけている。昼間のポカポカと気持ちのいい陽気も、日が沈むと一気に肌寒くなる。背中に寒気がして、俺はジャージのジッパーを首元まで引っぱり上げ、着替えの入ったバッグを膝の上で抱きかかえた。
ゆるゆると長いため息を吐いて、俺はさっき部活のあとで駆け込んできた武田先生の言葉を思い出した。
『決まったよー!練習試合!!
相手はあの青葉城西高校。
ただし、条件があって…』
“影山君をセッターとしてフルで出すこと”
「…思い通りに行かないことって、なんでこう立て続けに起こるんだろうな…」
口から漏れた言葉は、受け取ってくれる相手がいないまま虚しく消えていった。
影山ほどの実力と才能があれば、他校から警戒されて当然だ。インターハイ予選で対戦する前に、力量を見て対策を立てておきたいんだろう。
自分よりも影山が注目され、選ばれたのはもちろん悔しい。ただそれよりも、心のどこかで「仕方ない」と諦めかけた自分が許せなかった。
「決めただろ、負けない、って」
俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
それからスマホを取り出し、メッセージアプリのリストの中から一人を選ぶ。
『お疲れ。今年は新入部員が4人入ったぞ〜。内3人は俺よりもデカくてさ、結構面白いやつばっかだよ。みんな待ってるから、旭も気が向いたら見に来いな!』
そこまで入力し、
最後の送信ボタンで手が止まる。
…いつもこうだ。
「孝支君…?」
その時、不意に声をかけられた。驚いて顔を上げると、いつの間にかキョトンとした顔のみなみさんが立っていた。