第1章 はじまりは…
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俺たちは学校までの道のりを並んで歩いた。
「変な感覚だよなぁ、知り合いが自分の高校の先生だなんてさ」
「私も変な感じ。でも多分、孝支君のクラスは教えないんじゃないかなぁ…。高3のクラスは新任には任されないと思うよ」
「そっか、残念だな〜。教科は何なの?」
「古典担当だよ」
「古典かぁ、すげーそれっぽい!」
「そうかなぁ」
「うん。数学とか物理って言われたらどうしようかと思った。昔から理系苦手だったべ?暗算とか、小学校の俺のほうが早かったし」
「そうだけど…でもこれでも頑張ったんだよ、先生になるために」
そう言って、俺の隣で彼女はくすくすと笑った。彼女の声は朝の静かな空気によく響いた。吹奏楽部のやつが持ってた…そう、フルートみたいな、柔らかくて耳をくすぐる声だ。
彼女は、そういえば、と話を変えた。
「いつもこの時間に登校してるの?」
「いつもはもっと早いよ、部活の朝練あるし。今日はたまたま早起きしたから早めに出ただけ」
「部活かぁ…青春って感じだね」
「おばさん、俺が烏野だって知ってたんだ」
「うん、孝支君のお母さんに聞いたみたい。また遊びにおいでって言ってた」
「ははは、小さい頃よくみなみさんち行ってたもんな」
「みなみちゃん」なんて、昔の呼び名で呼ぶのは何となく恥ずかしくて、俺はわざと「さん」付けで呼ぶ。それが、大人になった彼女に対する礼儀のようにも思った。
他愛もない話をしていたら、学校の正門が見えてくる。「よしっ」と小さく気合いを入れて、彼女は言った。
「じゃあ私先に行くね!あんまり生徒と一緒に登校しない方がいいと思うから…」
「そっか、じゃあまた。がんばれ野村センセイ!」
「うん、ありがと!」