第1章 はじまりは…
手を降って彼女は走って行く。
その後ろ姿を見つめながら、彼女が俺の初恋の人だったことをふと思い出した。
同級生の女子達と比べて、みなみさんはすごく大人っぽくて、知的で、子供心に魅力を感じていたのかもしれない。
最後に会ったのは俺が中学1年だか2年の時。彼女が受験生になるからという理由で、あまり会わなくなって、それ以来だ。高校を出たあとは、確か仙台の教育学部のある大学に行ったと聞いていた。
胸の奥がソワソワと落ち着かない。走ったわけでもないのに、心臓がドクドクと脈打っている。身内にこんな感情を抱くのは後ろめたいと思いつつ、正直なところ彼女に再会したその時から、その細い首筋や、形の良い柔らかそうな唇にばかり目が行って仕方がなかった。
あの時とはまた違う感覚で、
俺はもう一度、
彼女に恋をしてしまったのかもしれない。
喋る速さ、声のトーン
きっちり第一ボタンまで止めたワイシャツ
眠れなかったのか目の下にクマ作ってる所
気遣い屋で、のんびりしていて、たまに頑固で、頑張り屋なのはあんまり変わってなさそうだ。
…でもよく知ってる人のはずなのに、会わなかった数年間で彼女は俺より随分大人になってしまった気がして、懐かしいような、もどかしいような、そんな気持ちになった。