第4章 それぞれの帰り道
通常練習が終わり、誰より早く着替えを済ませて部室から出る。時計は午後5時10分を過ぎたところ。部室棟から校舎側に回って、俺は職員室の窓を眺めた。休日のこの時間まで出勤している職員は少ないようで、すぐにみなみさんらしき人を見つけた。まだ真面目に仕事をしているみたいだ。休日なのに熱心なもんだな、と感心する。無理をしすぎて身体を壊さなければいいけど。
そんな事を考えながら、俺はまた小走りに部室棟へ戻り、階段下で他の奴らが出てくるのを待った。先に出てきた大地が「なぁ、スガ」と俺を呼ぶ。
「このあと時間あるか?新入部員も混じえて、ポジションの見直しをしときたいんだよ。坂ノ下商店で」
「あぁ…えっと、6時前までなら…」
俺が答えると、大地が意味有りげに目を細めた。
「まさか…デート、とか言わんよな…?」
「そ、そんなんじゃねーべよ!俺はただ…」
俺はただ、今日一日なんとなく元気がなかったみなみさんの様子が気になっただけだ。だから、あわよくば一緒に帰りながら理由を聞き出そうと思っただけだ。
…なんてことは口が裂けても言えずに、適当な理由を付け加える。
「ただ、来週の小テストの勉強、早めにしとこーと思ってただけだべ。大地こそ大丈夫なのかよ」
「ああ〜、まぁ、数学なら何とかなるかな…」
「はぁ…、いいよな、文系のくせに理数系も得意なヤツはさ」
「まーな、」と答えた大地が、少し黙ったあとで突然笑いだした。
「ははは、お前らしいな。“いろいろ”と」
「へ…!?」
「まぁ、気を揉むのは分かるが、ホドホドにしなさいよ」
そう言って笑顔で肩を叩かれる。苦し紛れに「なんの事だよ!」と問い詰めても大地はただ笑うだけだった。