第3章 3vs3
短い沈黙のあと、一番初めに声を上げたのは、スパイクを打った日向自身だった。気の抜けたへんてこな声で叫ぶ。
「ふぉぉおおおー!?」
ぷるぷると震える手の平を、ズイ、と影山につき出す。
「手に当たったァァ〜!!何!?今お前、何したの!?」
「手に当たったって、大げさな…」
そう言いかけた影山の後ろから、大地が動揺した様子で言った。
「オイ、今…日向、目ぇつぶってたぞ…」
「はぁ!?」
「ジャンプする瞬間からスイングするまで日向は目をつぶってた。つまり、影山がボールを全く見てない日向の手のひらピンポイントにトスを上げたんだよ…」
その場の全員の視線が日向と影山に向いた。俺は背中に寒気を感じて、ぐっと拳を握りしめる。固く握ったその手が震えた。
隣のみなみさんが、首を傾げて俺を見上げる。
「そ、それって、影山君のトスが凄いってこと…?」
「…凄いなんてもんじゃねーべ。スパイカーが合わせてくれるならともかく、狙ったその場所に寸分の狂いもなくトス上げるなんて、普通は出来ねーよ」
「そうなんだ、そうだよね…」
「…俺、影山の足元にも及ばないかも」
…そうだ。数ヶ月前に中学生の影山の試合を見て、それから“あの王様”が烏野に来たことを知った時から思ってた。
あの試合で影山はチームメイトから拒絶され、孤立しているように見えた。影山には、仲間と信頼関係を築く素質とコミュニケーション能力が絶対的に足りないーーーそれを差し引いたとしても、同じセッターだからこそ分かる。俺と影山には、圧倒的なレベルの差がある、ということが。
俺がこれまでに培ってきた全てを、簡単に上回ってしまう程の才能と技術力。そんなヤツに、俺はチームメイトとして、同じセッターとして、これから1年間戦っていかなきゃいけないんだ。だけどそこでは、影山よりも2年間多く積み重ねてきた経験とかプライドなんて、全くの無意味な気がした。
ーーー果たして真っ向からぶつかった時、俺は影山に勝てるのだろうか?