第3章 3vs3
田中はモゴモゴと言い訳しながら日向を横目で見た。呼ばれた日向はビクリと肩を震わせる。
「とにかくお前ら、先生にはちゃんと敬語を使うこと!ほら、試合始まるぞ」
「う、うす…」
脇腹をさすりながら田中が渋々とコートに引き返し、その後を日向が追った。俺が後ろに向かって「大丈夫?」と聞くと同時に、俺の背に隠れていた彼女が吹き出す。
「ふふふ、それを言ったら、菅原君もじゃない。全然私を先生扱いしてくれないんだもの」
クスクス笑いながら背中を軽く小突かれる。
「心配性の弟がいるみたいよ」
血液が一瞬で沸騰したみたいに、俺は自分の顔が赤くなるのを感じた。
「おっ、俺は幼なじみだからいーの!」
ひとしきり笑ったあとで、彼女は付け加えた。
「みんな賑やかで元気だね、菅原君も楽しそうだし。みんなを見てると私まで元気になれる気がする」
そう言って優しく笑った顔がどこか寂しそうで、俺は違和感を覚えた。
「あのさ、何かーーー」
『ピーーー!』
“何かあった?”と問いかけるより早く、試合再開の笛が鳴る。彼女がハッとした顔でコートに視線を向けたので、俺もひとまず会話を中断し、試合に集中することにした。
日向と影山のチームがリードしたのも束の間、数分後にはすぐに点を取り返され、あっという間に突き放されてしまった。始めは間近で見るプレーにはしゃいでいた彼女も、次第に不安そうな表情になっていく。特に、日向のスパイクが月島のブロックに阻まれる場面が目立った。その度に、隣の彼女が小さく悲鳴を上げる。
大地のサーブ。田中がレシーブして影山がふわりとトスを上げる。思わず感心してしまうほど綺麗なフォームに完璧なトス。そして、見事な放物線を描いてボールが落ちる先に、日向が高く跳躍していた。
(打て…!)
そう思うより一瞬早く、日向の目の前に月島の高いブロックが立ちはだかる。
ドシン、と重い音を立てて、ボールが日向側のコートに叩き落とされた。残念そうに唸る彼女に反して、コートの中の山口が嬉しそうに飛び上がる。
「ドシャットー!さすがツッキー!!」
「山口、いちいちうるさい…」
「ごめん、ツッキー!」