第11章 ふたりの距離
「し、清水さんが……」
そう言いかけてみなみさんは言い淀んだ。うつむいて舌唇を噛みしめ、自分を守るように抱きしめて座る彼女は、嵐が通り過ぎるのをただただ耐える小動物のように見える。
なんでそんな風に
清水を庇うみたいにして話すんだよ。
……もしかして、
みなみさんは気付いてるんじゃないか?
清水の俺に対する気持ちを。
合宿中、みなみさんは基本的に
清水と一緒に行動してたから。
だからそんな風に清水の話を持ち出すのかよ。
俺が好きなのは、
今目の前にいるみなみさんなのに。
たまらなくなって、俺の方が口を開く。
「……合宿で清水と何かあった?」
「えっ…」
「…そのハンカチ預かる時、清水の様子がおかしかったからさ」
「な、何でもないのっ…」
みなみさんは昔から
ごまかすのが本当に下手クソだ。
何か後ろめたいことがある時、
黙って目をそらす癖があるから。
バレバレだっつうのに…。
「その、アイツに…何か聞いた?」
激しく首を振って否定するみなみさんに、俺は食い下がった。
「俺のこと、とかさ…」
「………」
「…よく分かんねーけど、みなみさん最近おかしいべ?俺だってワケ分かんないまま避けられたりしたら結構ツライじゃんかよ」
みなみさんの瞳が、ゆらゆらと揺れる。
同時に、軽音部の演奏がピタリと止んだ。
今度こそ沈黙が降りる。
もしかしたら、
清水から何か相談されたのかもしれない。
恋愛のこととか、俺の事とか、
…そういう事を。
いや、清水はそんなことを
先生に相談するタイプじゃないか…。
でも、もしそうなら、
今まで親しげだったみなみさんが
清水に気を遣って、
俺から距離を取るのだって納得できる。
…だけどみなみさんが口にしたのは、
予想外の理由だった。
「……孝支君にとって、私は特別な存在なんだ、って清水さんに言われて……」
「えっ…?」
【トクベツナソンザイ…?】
俺はその言葉の意味がすぐに飲み込めなかった。