第11章 ふたりの距離
「あ、そうだっ…!」
こんな閉鎖された空間で、大地が来るまで無言で過ごすなんてゴメンだ。何でもいい、再び沈黙に支配される前に、俺は慌ててズボンのポケットを探った。
淡い桃色のハンカチを目の前に差し出され、みなみさんが、あ、と小さく声を上げた。
「私のハンカチ…どうして…?」
「コレ、合宿の時忘れてったろ?清水が見つけて俺に預けてくれたんだ」
「清水さんが…?」
みなみさんは一瞬だけ戸惑いの色を瞳に浮かべて、「ありがとう」とおずおずと俺の手からそれを受け取った。
「清水さん、直接渡してくれても良かったのに…」
手にしたハンカチを胸元に押し当て、ポツリとこぼす。その一瞬翳った表情に、俺は違和感を覚えた。
合宿の最終日。清水からソレを手渡された時、俺も同じことをアイツに言った。
『清水から直接渡してくれればいいのに』
『そうなんだけど…きっと気を遣わせちゃうと思うから』
あれは〈俺の手でみなみさんに渡してやれ〉という、清水なりの気遣いなのかと思ってた。あの時は、余計なおせっかいくらいにしか思わなかったけど…。でも、清水が本当に気にしていたのは、俺じゃなくてみなみさんの方だったんじゃないか…?
確信があったわけじゃない。
ただ何となく、そんな気がした。
「………清水さんて…」
しばらく黙ったあと、聞こえてくる音楽にかき消えそうな声で、みなみさんは続けた。
「すごく、綺麗なコよね…」
「…え?あぁ、まぁ…男子の間で話題になるくらいだし…」
「入部したばかりの頃、菅原君にすごく助けられたって言ってた」
「あぁ…清水のヤツ、バレーは未経験だったからな。女子はアイツだけだったし、不安だろうと思ってさ」
「…菅原君のこと、すごく頼りにしてるみたいよ」
「へぇ、それなら嬉しいけど…」