第11章 ふたりの距離
みなみさんは心細そうに膝を抱えた。
窮屈さのせいか、暗がりのせいか、
沈黙が、いつもより重い。
とその時、軽音部のリハーサルの音が聴こえてきた。お世辞にも上手いとは言えない演奏だけど、今はそれでもありがたかった。こんな状況で無音なのは居心地が悪い。
くぐもった演奏が倉庫に響く中、少しだけ緩んだ空気に後押しされて俺は思い切って口を開いた。
「……ずっと気になってたんだけどさ…」
「何…?」
「…みなみさん、最近俺のこと避けてない?」
「え…そ、そんなことないっ…」
「ホラ!そーやって目ぇ逸らしてさぁ。何か気に食わないことがあるなら、言ってくんなきゃ分かんねーべ?」
「別に…何が気に食わないとか、そういうのじゃないから。大丈夫…!」
「大丈夫っつってもなぁ…それに前までは皆がいない時は下の名前で呼んでたべ?"菅原君"じゃなくってさ。どうしたんだよ、急に」
「あ、あんまり特定の生徒と深く付き合うのは良くないと思って…」
「なんだよ、教頭に何か言われたとか?」
「ち、違うの…そんなんじゃなくて…。ただ、私がもっと教師としてしっかりしなきゃって思ったから…。最近、学校でも部活でもこうしてあなたと一緒になることが多いでしょう?助けてもらってばかりだし、これじゃ駄目だなって思ったの」
「そーかな…?俺の方こそ、旭の件とかいろいろ助けてもらってると思うけど…」
それでも、みなみさんは頑なに首を振るだけだった。小さくため息をついて、俺は続ける。
「…俺、だいたい苗字で呼ばれるからさ、みなみさんみたいに下の名前で呼んでくれるの新鮮で…その…結構好きなんだけどな…」
言った瞬間、みなみさんの肩がピクンと跳ねた。
「え、何…?俺なんか変なこと言った?」
「何でもないっ…!ご、ごめんっ…」
それっきり、みなみさんは口をつぐんでしまった。