第11章 ふたりの距離
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「じゃあ、菅原君が必要な分だけ出してくれる?数を確認するから」
倉庫の重い扉を開けて、みなみさんが言う。移動する間、みなみさんは相変わらず目を合わせず黙ったままだった。必要最低限の会話しかしない、そんな感じだ。距離を感じるのは、多分苗字で呼ばれているせいもあるだろう。
(なんだよ…前までは、二人の時は下の名前で呼んでくれてたじゃんか…。そんな一方的に突き放されたら、こっちだってどうしたらいいか分かんねーべよ)
俺は気付かれないようにため息をつき、倉庫に入る。
中は普段きちんと管理されていないのか埃っぽく、薄っすらとカビの臭いがした。入口横のスイッチを押しても電気がつかず、申し訳程度に付いている細長い窓から漏れる光だけが、倉庫内を薄暗く照らしていた。思っていたより随分広い倉庫で、使っていないパイプ椅子や陸上用具が、そこかしこに雑然と置かれている。だけど、必要な長机がなかなか見当たらない。
「なんだよ、どこにもないじゃんか…」
「もしかしたら奥の方かも」
ずっと入り口で待っていたみなみさんも、仕方なく中を探し始めた。
「…あ、そこの鉄パイプの奥に立て掛けてある」
「ホントだ!うわ…これ全部どかすのかよ…」
倉庫の一番奥、支柱が何本も積まれたその向こうに、机が立て掛けてある。俺は慎重に手前の支柱を運び始めた。
とその時、入り口から教頭の声がした。
「誰だぁ?倉庫を開けっ放しにしたヤツは…全く…」
言い終わる前に、ガラガラと重い金属扉が閉められる。ガチャリと鍵の閉まる音。みなみさんがすぐそばで息を呑んだ。
「うそっ…」
「げっ…マジかよ…」
慌てて扉に駆け寄り耳を澄ましたけど、教頭はもうどこかへ行ってしまったようだ。見回り中に鍵の挿さったままの扉を見て、勘違いしたんだろう。
みなみさんは、奥の方で不安げな顔をしている。安心させようと俺は言った。
「大丈夫だって、内側から開ければ出られるから…あ、あれ…?」
「どうしたの…?」
「錆び付いてて…こっちからだと全然っ、動かない…!」
「えっ…」
みなみさんも駆け寄って確かめる。
「ホントだ…どうしよう…」