第11章 ふたりの距離
既にげんなりしている大地のことなんかお構いなしに、原田はテキパキと採寸を始めた。演劇部で普段から衣装を担当しているらしい原田は、今回の文化祭の衣装担当も自分から立候補するくらいやる気満々だ。先に衣装合わせを終えたバスケ部のヤツらが、原田に捕まると面倒だとか言ってたのはこういうことだったんだな…。
原田は手際よくメジャーで大地の肩を測りながら、目線だけチラリとこちらに向けた。
「なんか菅原がそういうカッコしてると王子っぽいよね〜」
「何だよ、王子って…」
「そういうシュッとした感じが似合う、ってこと!写真撮ってあげよっか?彼女きっと喜ぶよ?」
「か、彼女って…いねーよ、んなもんっ」
「あれ、そーだっけ?ごめんごめん」
あっけらかんと言い放つ原田の言葉に、一瞬ヒヤリとさせられる。彼女がどうとか付き合うとか付き合わないとか…そういう話題は、今はできるだけ触れないでほしい。
そんなこっちの気持ちなんか知るはずもなく、原田は続けた。
「そーいう雰囲気、女子は好きなんだよね。気になるコくらいいるでしょ?絶っ対ウケると思うんだけどなー」
「はは…んじゃ参考にしとく」
俺は短めに返事をして済ませた。
ホント、そんなに単純なことならどんだけ気が楽だか。
「んじゃ、俺は先にーーー」
「すまーん、菅原、澤村!」
「長机が全然足りねぇんだよ〜。悪ぃけど、そっちが終わったら5つくらい持ってきてくんね?」
「えっ…」
いち早く退散しようとしたところで、示し合わせたかのように邪魔が入った。やって来たクラスメイトに大地が苦い顔を向け、そのせいで原田に「動かないで、」とはたかれる。仕方なく大地の代わりに俺が答えた。
「だって、もうどこ探してもなかったろ?」
「いや、第二体育館横の古い倉庫あんべ?あそこに使ってないのがあるんだよ。2年の時、俺あそこから持ってきたんだ、確か」
俺は大地と顔を見合わせた。
『面倒くさいのに捕まった』
…と大地の顔に書いてある。