第11章 ふたりの距離
答えながら、俺と大地は慌ててカッターシャツの第一ボタンを留め、腰に黒いエプロンを巻く。俺の首元には黒い蝶ネクタイ、大地の方は細身の黒ネクタイ。
気候の安定する5月下旬。烏野高校では毎年この時期に文化祭を開く。明日からの二日間、一般開放される学校内は、浮かれた生徒達の声でいつもの何倍も騒がしい。クラスごとに出し物や店が出されることになっていて、うちのクラスはと言うと、一部の女子の熱烈な希望でメイド・執事喫茶をやる事になっていた。先に衣装合わせを済ませた女子は買い出し、男子は教室に残って開店準備と衣装チェック、ということだ。
《受験勉強が本格化する秋以降は、なるべく学校行事を入れない》という学校側の配慮らしいけど、俺達にとってこの時期は、インハイ予選前の大事な時でもある。
そんな中、文化祭の設営で貴重な一日が潰れるというわけだ。今日はバレー部も含め、設営のため全部活動が休止になっているから体育館が使えない。だから俺と大地は、旭と合流して自主練をする約束をしていた。大地なんか、さっきから何度も時計を気にしている。
「よし、オッケー。んじゃ、とっとと終わらせて自主練行くぞ」
「そーだな。すまん原田、お待たせー」
着替えを済ませて廊下に出ると、不満げな顔で待ち構えていた原田が、こちらを見るなり飛び上がって叫んだ。
「うわっ!二人ともいいじゃんっ!バッチリ!!」
「え…そ、そう?」
「うんうんっ、私の見立てどーりっ!やっぱこういうカッコさせるなら、普段から鍛えてる運動部の方がいいよねぇ〜!」
言いながら原田は、俺と大地をつま先から頭のてっぺんまでジロジロとチェックした。目を皿にする、なんて言うけど、まさにそんな感じだ。どうにも居心地が悪くて、俺達は互いに苦笑いした。
原田は顎に手を当てながら「うーん」と唸ったかと思うと、今度は眉間にぐっとシワを寄せ、急に笑顔になって頷き、親指を立てた。
「菅原は、合格ッ!」
「オッケー?良かった〜」
「え…!ちょっと待て、俺は?」
「うーん、澤村は何ていうか…肩幅あるから会社務めのお父さんっぽくなるんだよねぇ…。ベスト着てもらえば何とかなるかな…それともネクタイじゃない方がいいとか…」
「おいおい…まだやるのか…?」
「モチロン!こういうのはとことんやった方が後でいい思い出になるの!ホラ、しゃんと立ってよ!」
