第10章 今いる場所
伝える気なんてなかった。
ずっと秘めたまま、卒業すると思ってた。
でも、今なら言える気がする。
素直な気持ちを。
私は水道の蛇口を締めて、
菅原に向き直る。
「あのね…」
「ん?」
「ずっと、菅原のこと考えてた」
「は?…俺?」
「…1年の時から、ずっと気になってた。こうやって私が落ち込んでたり困ってたりすると、いつも声かけてくれるのが菅原だったから…。菅原が他の女子と話してるの見ると、すごくイヤな気持ちになったり、菅原のプレーを見てるとドキドキしたり。…だから私、きっと好きなんだと思う。菅原のこと」
「…………」
息継ぎも忘れて、私はずっと思っていたことを一気に伝えた。最初に声さえ出してしまえば、案外言葉は次から次へと溢れ出てくるものだ。
目の前の菅原は口を開いたままポカンと私を見つめていた。しばらくして、ようやく自分が告白されたのだと分かったのか、忙しく瞬きをして言う。
「え、えっと…なんかいきなりでビックリして…ありがと…正直すげー嬉しいけど…」
「うん…」
「でも…、ゴメン」
「………」
「俺、いま気になってる人がいるんだ。だから清水の気持ちには答えられない…。悪い。ホント、ごめん」
「……ううん」
私は小さく首を振った。
分かってる、そんなの。
ずっと見てたから。
「知ってた」
「え…?」
「菅原に好きな人がいる事くらい、見てれば分かるよ」
「えっ、何っ?俺そんな分かりやすい顔してた…!?」
「うん、してる」
私が笑うと、菅原も困ったように笑った。
何だろう…。思ったよりも辛くないかも。
告白して振られたら、もっと傷つくものだと思ってた。だけど、想像してたより痛くないや。
初めから諦めが付いてたせいかもしれない。
私は息を吸い込んで言った。
「突然変な話してごめんね…!明日からもっと部活に集中する。私は大丈夫だから、菅原も今まで通り接してくれると助かるかも」
「あ、あぁ…」
「応援してる、部活も恋愛も。でも…」
「でも、何…?」
「早くしないと、誰かにとられちゃうよ?綺麗だし、優しいから。野村先生」
「なっ…!」
申し訳なさそうに目を伏せていた菅原が、ぱっと顔を上げた。色白の顔が、みるみる赤く染まる。