第9章 特別なひと
「つーか、顔色悪いじゃん!大丈夫か?」
「あぁ、うん…お風呂で考え事してたらのぼせちゃったみたいで…」
「立てる?」
「あ、ありがと…」
孝支君が少し屈んで手のひらを差し出した。その手を取ろうとした時、さっきの言葉が頭をよぎる。
ーーー孝支君にとって特別な人ーーー
「…だっ、大丈夫!一人で立てるから…!」
すんでのところで手を引っ込めた私を見て、孝支君は不思議そうに首を傾げる。
「え?あぁ…分かった…」
「よいしょっ…わわっ…!」
「ちょっ…危なっ…!」
ふらついた足がもつれた。
倒れるーーーと思わずギュッと目をつむる。
でも固い床の感触はなく、目を開いた私は孝支君に抱きとめられた事に気付いた。
「あ……」
「全然大丈夫じゃねーべよ!フラフラじゃんか!」
「ごっ…ごめんっ…!!」
思っていたよりも分厚くてかたい胸板。
そばで響く、低いけど柔らかな声。
私が寄りかかってもビクともしないくらい、
孝支君はいつの間にか男の人の身体になっていた。
そんな事分かってたはずなのに、
なぜだかドキリと心臓が跳ねる。
慌てて離れようとした私の腕は孝支君に掴まれ、無理やり引き寄せられた。
「わっ…」
「ホレ、俺の肩掴まって。とりあえず向こうのラウンジのとこで休もう」
「う、うん…」
孝支君は身体をかがめて、私の腰に腕を回した。私もおずおずと孝支君の肩に触れる。
パジャマ越しに伝わってくる孝支君の体温。そっと見上げた孝支君の顔は、いつもより少しだけ赤く染まっているように見えた。
孝支君はそのまま私を支えてラウンジまで歩いてくれた。長椅子に私を座らせ、自分はポケットの財布から小銭を取り出し、自販機に入れた。ガコンッ、という音ともに転がり落ちてきたミネラルウォーターのキャップをはずし「はい」と私にそれを差し出す。
「これ飲んで水分補給するべ」
「え…、いいの…?」
「この前看病してもらったお礼ってことで」
「ありがと…」
受け取って一口飲む。孝支君はホッとした様子でため息をついた。
「ったく…。髪、濡れたまんまじゃんか…。ちゃんと寝る前に乾かせよ?」
「ん、大丈夫…」
「えっと、それとさ…」
「なに…?」
「パジャマのボタン、一段掛け違えてる」
「え…」