第9章 特別なひと
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賑やかな食事が終わり、みんながお風呂に入っている間に、私と清水さんは夕飯の片付けに取り掛かった。
黙々と洗い物をこなす清水さんの隣で、私は洗いたての食器の水滴を丁寧に拭き取った。
食堂には水の流れる音だけが響く。清水さんはさっきから一言も喋らず、うつむきがちにただ手を動かしている。
しゅっと真っ直ぐ伸びた鼻筋に、髪の間から覗く白いうなじ。大人びた雰囲気が、彼女の魅力をより一層引き立てているように思えた。
(こんな美人な子に好かれるなんて、孝支君も隅に置けないわね…)
まるで親のような誇らしげな気持ちになって、口元が緩む。
スポンジで洗い上げる彼女のきれいな細い指先を眺めながら、私はふと清水さんに尋ねた。
「…ねぇ、清水さんはどうしてバレー部のマネージャーになろうと思ったの?」
清水さんは我に返ったかのような顔で私を見た。そして驚いた顔を見られたのが恥ずかしかったのか、すぐにまた目を伏せる。
「えっと…最初は、帰宅部でもいいかなって思ってたんです。やりたいことも特に浮かばなかったし、何か取り柄があるわけでもないし…」
「だけど…」と口ごもりながら続ける。
「特に部活にも入らないまま過ごしてたら、ある日、マネージャーにならないかって声をかけられたんです。当時、バレー部にはずっとマネージャーがいなくて、それでマネージャーを探してたみたいで…」
「そうだったのね…」
「はい。入学したばかりの頃は、クラスに知ってる子もいなかったし、引っ込み思案だから友達もできなくて…。だから、マネージャーやってみるのもいいかなって思ったんです。私で出来ることがあるならやってみようかな、って。でも…」
言い淀んだ清水さんを促すように、私は言った。
「でも、なに…?」
「…正直最初は入部したことを後悔しました」
「え、どうして…?」
「周りは男子ばっかりだし、マネージャーの仕事を教えてくれる先輩もいなくて。バレーの経験だってないし、このままココに居ていいのかな、なんて考えてました」
「…………」