第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
「‥はは、」
跪いていた少年はゆっくりと上体を起こし目の前の人物を見る。
「やっぱり凄いよ、君。流石‘無の眼’だね~」
「‥!‥‥あの、‥本当に迷惑なので、‥早く視界から消えて下さい。‥周りも、そちらに居る人も‥無関係です。‥‥‥‥ティーセ、さん」
そう言うとスゥっと左眼の色が元通りに戻る。
そして地面に落ちている帽子を拾い土埃を払いながら深く被り直す。
「!やっと呼んでくれたね~!さんは要らないけど、まあ良いや。‥本当はイケメン君を人質にしようとしたけど、満足したから今回は帰るね~」
ティーセは上機嫌に言いながら立ち上がり、及川の方を見る。
「あちゃー。まだ怪我をさせる予定は無かったけど、結構してるね~。忠告したのに。ま、掠り傷だし大丈夫だよね~?じゃ、僕はアジトに戻るからまったね~!」
闇に紛れ一瞬で消えるティーセ。
その場に残された二人の人間は暫く沈黙を続けていた。
先に口を開き行動に移ったのはシオルだった。
「‥あの、スミマセン。大分混乱していると思いますが‥、えっと、‥傷を見せて貰っても、大丈夫ですか?」
其れに対して及川は無反応だった。
――と言うより、まだ何が起きたのか理解しておらず、必死に脳内で整理しようと奮闘して居た。
「‥‥‥そっか、夢か!!」
そして出した答えが此れだった。
「なーんだ。そっか~夢なら納得出来‥るよね?うんうん、あ~良かったァ。リアル過ぎて現実だと思ったよ~」
一人で腕を組みながら呟いていると背中にピリッと痛みを感じた。
「痛った、‥ん?アレ、夢なのに何で痛いの‥?(そういえばさっきからあちこち痛い様な‥)」
今度は悶々と眉間に皺を寄せて考える。
「‥ぁの、」
「ちょっと待って、今考え中だから‥‥ん?」
聞いた事が有る声に反応し、顔を上げる。
「ぅわぁあぁぁあ?!!――アレ‥君はさっきの、」
いきなり真ん前に立って此方を見ている人物に驚き声を上げた。
「‥驚かせてスミマセン。‥あの取り合えず痛みを感じる処を診せて下さい」
「へ?あ、‥やっぱりコレ夢じゃ、ない?」
「‥‥‥」
及川の問いに無言でいるシオル。
沈黙を肯定と解った及川は信じられないという表情をした。
「‥マジ?」
静かな裏路地にその一言は大きく響いた。