第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
「‥駄目だよ~?余所見しちゃ」
「――ッ、」
逃れ様と手足を動かすが、逆にきつく絞められる。
「無駄だよ~?蔓は伸びて地面をはったり物に絡み付く植物‥つまり狙いさえ間違えなきゃ必ず捕らえる事が出来る。
‥其れに加えて僕のは藻掻けば藻掻く程強くなる」
「‥‥‥」
シオルは動くのを止め俯く。
頬や腕、脚には先程掠った植物の刃で切れて傷口から赤い液体を流して居た。
少年は其れ等を見て、一瞬顔を顰めた。
「‥ね、抵抗は止めて早く来てよ」
「‥‥」
声を掛けても反応が無いのを不審に思い、少年はシオルの元へ歩く。
俯くシオルを覗き込む。眼を閉じていた。
「‥‥は、‥せん」
すると閉じられて居た眼がゆっくりと開く。
其れを見た少年は眼を見開く。
「‥‥!!」
シオルの片方の眼の色が変わって居た。
「‥其れは、‥出来ません」
そう言うと巻き付いていた蔓が消えた。
***
及川は目の前で起きている事がまるで理解出来なかった。
もし理解出来る人物が存在するのならば、今直ぐに状況と自分の身に何が起きているか教えて欲しい。
先ず二人の動きが普通の人間の動きじゃない。
もはや速過ぎて眼で追えない位だが、
其れよりも更に有り得ないのはこの自分にも巻き付いてる“蔓”の存在だった。
「‥‥‥‥、(帰りたい‥!近道なんてするんじゃなかったっ‥!)」
俯いてる及川の眼から水が流れようとした瞬間、身体に巻き付いて居た蔓が砂塵となって消えた。
「―――へ?」
いきなりの事で呆気に取られる及川だったが、俯いていた頭を上げて、この状況を作った人物へ視線を向ける。
すると其処には少年が帽子の人間の目の前で跪いていた。
驚いた及川は眼を見開く。
「‥‥ぇ、女、の子?」
さっきまで帽子を被っていた人間は今はもう被っては居なかった。
帽子で視えなかった髪や顔が露になっていた。
「‥‥ッ。‥綺麗」
そして一番眼に映ったのは少女の眼だった。
左右で瞳の色が異なっていた。
右眼は薄めの青緑、そして左眼は金色に輝いていた。
左耳には銀色のイヤリングが光も当てていないのに光っていた。
及川は暫く魅入って、自然と口にした言葉は誰にも聞こえて居なかった。
また、及川自身、声が出せる事に気付かなかった。