第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
及川はパニックになり先ず携帯をポケットに乱暴に突っ込んで、両手を構え少年をキャッチ出来るか考える。
「(――出来るか?いや無理だろ、‥だけど考えてる余裕なんてもうないッ)」
気を引き締めて短く息を吐く。
少年が地面に叩き付けられるまで
――――10m
―――5m
――2m
その時及川は少年越しにもう一人の人間が飛び降りて居るのを確かに眼で確認していた。
「‥ぇ?―――ちょ、ぎゃっ!?」
そのせいで視界が真っ黒になった事に気付くのが遅れた。
「ん~。ナイスキャッチ‥なのかなぁ?まあ普通の人間にしては上出来か~」
及川の上に跨がり、のんびりと話す少年。
一方その少年に下敷きにされてる及川は、受け身を取れず背中や頭部を強く打ち付けていた。
「―――ッ、‥った~。もうなんなの??ちょっと君、あんな処から飛び降りるなんて馬鹿なの?!」
声を上げながら少年の姿を確認する。
「(ん?この子供、外国人‥?それに変わった格好‥)」
まじまじと見ていると少年と今度はバッチリ眼が合う。
眼が合った事に及川の肩はビクっと揺れる。
「五月蝿いなあ。良いじゃん別に。何とも無いんだからさぁ~?其れに、イケメン君には関係無い事でしょ~?」
少年に関係無いと言われカチンときた及川は不満な表情を隠さず少し睨みながら言う。
「‥ちょっとチビちゃん?勝手に人の上に落ちて来て関係無いはないんじゃない?危なかったでしょ?」
面倒くさそうに少年も答える。
「‥はあ。何でこんな人に説教されなきゃいけないんだろう。――其れにさ、イケメン君が今気にするのは其処じゃないと思うよ?」
「どう言う意味?」
すると少年はニコリと笑い人指し指を真上に向ける。
其れを眼で辿っていくと人間が此方に向かって落ちていた。
「あっ!!さっきの!って危ない危ないッ!ちょっとチビちゃん退いて!!」
両手で少年を自分の上から退かそうとするが背中等を痛めているせいか、力が入らなかった。
「大丈夫だよ~、彼女は強いから。其れより僕のさっきの言葉聞いてたよね?」
少年は眼を細め怪しく笑う。
また背筋がゾッとしたが今は其れどころじゃない。
少年から再び落下している人間に眼を移す。
「―――手を貸してくれるよねえ?」
瞬間、及川の身体は完全に身動きが取れなくなった。