第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
「でも残念。君を逃がす訳にはいかないんだよ、此方も。‥だから大人しく捕まってくれない?」
「何度も言わせないで下さい。‥お断りします」
次の瞬間、二人の周辺の空気が変わった。
黒いスーツの男達は余りの気迫に唾を飲んだ。
「僕、きちんと忠告したからね?」
「‥‥貴方こそ。覚悟は出来てますよね?」
「も~また名前で呼んでくれないの~?」
少年は頬を膨らませ眉を潜めながら不満を漏らす。
「‥呼ぶ必要は有りませんので」
二人は同時に脚を踏み出した。
***
「あ~今日も疲れたぁ~」
シオルと少年が戦っている中、学校から自宅までの道をのんびりと携帯を操作しながら歩く人間が一人居た。
「すっかり暗いなぁ。‥と言うか岩ちゃんにボール当てられた処すっごく痛いんだけど!全く大事な身体なんだから優しくしてよね!!」
唇を尖らせ一人愚痴を溢す人間、及川徹は先程より歩幅を大きくする。
そしてふと立ち止まり、普段は通らない細い道を見詰める。
「‥近道して帰ろうかな」
暫く考え込んでいたがいつもの道ではなく、細い道を選択した及川は進む方向を変更する。
「なぁんか此方の方が暗いな~」
携帯を握ったまま視線を動かして古びた建物を興味深く見る。
そして数分後、細い裏道を抜けようとした時にいきなり物凄い音が響いた。
「っ?!え、ぇ??な、何??」
当然その音に驚いた及川は両手で携帯を力強く握り締める。
「確かあっちから、」
音が聞こえた方角を眼を細めながらジっと見る。
「‥‥は?」
及川の口から気の抜けた、マヌケな声が出た。
「何アレ」
及川が眼にしたのは、高いビルの屋上で小さな少年と、帽子を深く被った人間が争ってる処だった。
呆然と見ていたが我に返り焦り出す。
「え、何。け、警察に連絡??て言うかあんな処で何やってるの?!本当に人間ッ!?」
一人で騒いで居ると、ほんの一瞬だが、小さな少年と眼が合った‥気がした。
その時 少年はニコリと口角を上げた。
ゾッと寒気を感じ思わず自分を抱き締めるポーズを取る。
「ちょっと其処のイケメン君~!丁度良いや。ちょっと手を貸してよ~!」
頭上から声が聞こえバッと頭を上げると、眼に映ったのは少年が高いビルから飛び降りて此方に落下している姿だった。
「――――!?えっちょ、待っ――!!危な、ぃ」