第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
「あー。ちょっと待ってね」
「え‥?」
携帯電話を持つ感覚が不意に消え、代わりに少しダルそうな声が真後ろから聞こえた。
急いで後ろを振り向くと自分の携帯電話を素早い動きで操作をしている少年が立って居た。
「あ~うん、成る程。‥‘彼奴等’じゃない方の組織も動き始めたから急いで駆け付けたけど一歩遅かったかあ」
何やら操作を終えた少年が及川とシオルを見て瞬時に何が有ったか理解する。
「でもま、此方は間に合ったか。ほい携帯」
「わ、ちょっと投げないで!!」
ポイっと携帯電話を投げ渡され慌ててキャッチをする。
その様子を見た少年はクスッと笑う。
「アンタは見た処ただの一般人で、巻き込まれたんでしょ?――の割になんかあんまり驚いてないね。‥いや、寧ろ色々有り過ぎて逆に冷静になったかな」
「‥‥‥」
「‥其れに、自分じゃ気付いてないと思うけどさ。顔色がスゲー悪いよ?てかよく耐えてるね?」
「‥何に?」
ペラペラと話す少年に及川は眉間に皺を寄せる。
「この臭いだよ」
「‥‥‥‥ッ!」
少年に言われて初めて気付く。
鉄の臭い。‥血の臭いに。
「‥気付いてなかったんだ。‥ま。サンキュー」
「‥?」
「アンタのその格好と‥衣服に付いた血はシオルのだろうけど、応急措置してくれたんだろ?救急車も呼ぼうとしたみたいだけどさ、其れはパスで宜しく」
「でも!そしたらこの子が、」
「其処んとこは大丈夫。俺が何とかするし」
「‥何とかってそんな事出来るの??」
「まあ、出来んじゃね?‥ま、今回アンタは被害者らしいし、俺が家まで送ってやるよ」
「‥君が?何で?」
ティーセという少年よりは年上に見えるが、何れにせよ自分よりはずっと子供というのは確定している。
そんな子供(しかもこの状況に慣れてそうな怪しい少年)に送って貰うのは気が引ける。
「はぁ、別にまた襲われても構わないっつーなら別に良いけど」
少年は頭の後ろで腕を組み、座り込んでる及川を見下ろす。
「‥‥。何か最近の子供ってクソ生意気だよね。‥後輩だけかと思った」
表情を歪めながら脚に力を入れて立ち上がる。
今度は及川が少年を見下ろしながら口を開く。
「‥で?俺よりも先ずはこの子の怪我をどうにかするのが先でしょ?どーするの?救急車も呼んだら駄目なんでしょ?」