第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
仮面男は舌打ちをして、腕時計を確認するとその場から姿を眩ました。
「‥‥‥(‥取り合えず、終わりましたかね)」
シオルは完全に気配が消えたと解ると同時に地面に膝を付ける。
肩で呼吸しながらこの後の事を考える。
「(‥一刻も早く、彼を帰すべきですね。‥けど。この脚では逆に邪魔になる‥其れに加えこの出血‥は止血しないと流石にヤバいです、ね)」
既に意識が朦朧としてる中でシオルは考え続ける。
その間も血は肌を伝い、流れて更に右耳も音が聴こえなくなって居た。
其れを他人事の様に感じていたシオルは静かに口角を上げ呟いた。
「‥此れじゃ、恐がらせてしまい‥ますかね‥?」
そして遂に倒れてしまった。
***
シオルが倒れる数分前、銃で撃たれると思った及川は瞼を綴じて視界を真っ暗にした。
だが弾は及川の身体を貫く事はなく、シオルの耳を貫いた。
その事を理解した及川は当然こんな状況を経験した事がなく、今までよりも混乱に陥っていた。
「‥‥ェ、待ってよ。だから、全ッ然ついていけないんだけど、なに、何で‥、さっきまで普通だったのに。‥只、帰ってただけなのに、しかもまた俺、女の子に助けられたの‥?どんだけ情けないんだよ‥」
次に数メートル先にいるシオルの膝が地面に付くのをぼんやりと眼で確認すると、及川は脚が震えて立てないのをどうにか出来ないかと思い必死に手で叩く。
「クソ、動けよッ。行かないと、あの子が‥!」
シオルは膝で踏ん張っていたが次第に耐えられなくなり、倒れた。
それも確認した及川は、寄り掛かっていたコンクリートの壁を使い、何とか立ち上がり出来るだけ早くシオルの元へ移動する。
「‥‥‥!凄い血の量、」
近くで見ると暗闇でも確認出来る程に真っ赤に染まっていた。
及川は見た瞬間に寒気を感じたが、首を振り、先ず全体の傷の具合を看る。
「‥先ずは出血の多い箇所を止血しなきゃ」
自分の着ているジャージとTシャツを力任せに破き、腕や脚に強く締める。
次に偶然ポケットに入っていたハンカチで自分のせいで代わりに傷を負ってしまったシオルの右耳に押し当てる。
「‥ぇっと、次は救急車と警察に‥」
反対側のポケットを探り、携帯電話を取り出し救急車を呼ぼうと番号を打ち込み耳に当てる。