第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
「‥直ぐに、戻ります」
「‥‥うん」
及川の返事を聞くと直ぐに立ち上がり、仮面男の方へ脚を進めた。
残された及川はふと手に違和感を感じて暗闇の中、眼を凝らして見る。
「!‥此れ」
掌やよく見ればジャージにも其れは有った。
「‥そうだ、あの子‥傷だらけなんだ」
***
「‥で?やっと今回は諦めてくれたとばかり思っていたんですが。どうやら思い違いの様ですね」
シオルは相手を睨み付けながら言い放つ。
「‥‥‥」
仮面男は何も言わず懐から銃を取り出し、乱射する。
「―――!(こんな場所で‥!)」
「うわあッッ!?」
銃弾を躱していると及川の悲鳴が聞こえた。
「あッ、(マズいですね、)」
ちらりと確認をすると壁に寄り掛かり座っている及川の頬スレスレを掠っていた。
「余所見とは随分と余裕だな」
「いっ!‥つ」
ティーセという少年にやられた傷を更に抉られ、先程よりも赤黒い色の液体が流れて居た。
「もう終わりか?つまらんな」
そう吐き捨てる様に言うと銃をシオルのアキレス腱に狙いを定め、撃った。
「――ぅあ゙」
バランスを取れなくなり、その場に座り込んでしまう。
そんなシオルを見た仮面男は鼻で笑い、話し出す。
「ふん。‥どうやら俺が来る前は‘彼奴等’が来てたみたいだな。邪魔者を片したら連れてくか」
そう言いながら次の弾丸を装填し、及川の方へ向ける。
「悪く思うなよ。‥巻き込まれたのが運のツキだ」
「‥‥‥ッ、」
恐怖のあまり上手く声が出ない及川は只、男が持つ拳銃を見詰める事しか出来なかった。
「終いだ」
仮面男は引き金を引いた。
渇いた音が響き、及川は強く眼を瞑り、歯を食い縛って居た。
だが其れは無意味に終わった。
「‥ぇ、?」
眼を開けた及川は今起こっている事を、理解した時、身体が震えて居た。
「無関係の人を此れ以上、巻き込みませ‥ん。‥今、撃つ前‥わざと方向を変えましたね?‥耳しか、当たってませんよ?――此れでは、人を殺める事は、不可能、です」
片脚には銃弾を受けて無かったので、シオルは脚を引き摺りながら仮面男と及川の間に入り込んだ。
其れに気付いた男は方向を変えた。
そしてその銃弾はシオルの耳を貫いた。
男は何かを言おうと口を開くが、その前にバイブ音がなる。