第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
及川の叫び声に溜め息をしながらも答える。
「‥あの、静かにして下さい、集中出来ません」
「集中って、何言ってんの?!んなの無理だってば!!両脚浮いてるんだよッ?」
及川に叫ばれながら初めて気付く。
「‥嗚呼、スミマセン。‥忘れてました。‘普通’の人を担ぐのは初めてなので、‥では、申し訳有りませんが両腕を僕の首にまわして下さい。次に脚を少し上げて下さい」
「‥?」
及川は途中何かに引っ掛かったが、今は言われた通りにするしか他に無いので掴まれていない片手をシオルの首にまわす。
其れを確認したシオルは掴んでいた腕を離し、及川の両脚を自分の腕に乗せる。
「此れで問題は有りませんよね?‥こんな事をやってる間に追い付かれそうです」
シオルがそう言った瞬間、シオルが次に足場にした管が砕け散った。
「ぎゃー??!落ち、る」
涙眼になりながら痛みが来るであろう衝撃に備えて眼をぎゅっと瞑る。
だがいつまで経っても何処にも痛みを感じず、そっと眼を開く。
「貴方は、何処の部隊ですか‥?」
自分の事を背負っている少女が誰かに問い掛けていた。
気付くと何処かの古びた屋上に居た。
「‥大丈夫ですか?」
不意に自分に問い掛けられ、一瞬戸惑うが口を動かす。
「うん、ありがと」
すると眼の前の少女はバッと頭だけ振り向き、唯一見える口が半開きになって居た。
「ん?‥どうしたの?」
「‥‥、!ぃぇ、何でも」
顔を逸らされた及川は少し落ち込む。
そしてシオルは屋上の中で最も安全な処へ及川をそっと降ろす。
「‥先程は脚に負担を掛けてしまって、スミマセンでした。此処で、此処なら気休め程度ですが安全ですので‥ぇっと、」
俯き何かを言おうとしているシオルを見て及川は優しい笑みを浮かべ、シオルに語り掛ける。
「うん、此処に居るよ」
及川はどうして自分が初対面の相手にこんな事を言ったのか理解出来なかった。
――が、表情は見えなくても眼の前にいる少女が哀しそうに感じたのは、恐らく気のせいではないと思った。
「―――!」
シオルは及川の言った事の意味を理解し、眼を見開いた。
「‥‥はい(‥本当なら一刻も早く此処から離すべきなのに、責められるべきなのに‥。さっきだって、)」
《うん、ありがと》
「‥‥」