第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
即答されたヤングは大袈裟に溜め息をし、話を続ける。
「なあ、今回の任務の訳はやっぱ教えて貰えねえのか?」
『‥どうしたの?いつもならそんな事聞かないのに』
「‥いや。だがどうも‥‥」
ヤングの反応に電話の相手は少し黙る。
『‥‥気になるの?』
「まあな。‥‘いつも’の標的の奴とは違う雰囲気っつーか、変わった奴だったからよ」
直ぐに返ってきた返答に電話相手は少し眼を大きくする。
そしてヤングには聞こえない程度に笑う。
『―――ふーん。でも‘まだ’言えないかなあ?』
「そうかよ。じゃあ良いわ。‥っと、そうだ。俺等全員もう立てねえんだよ。迎え頼む」
『えっ?何で?』
「‥標的にやられた以外何があんだよ。腱を深く切られた、一瞬で」
『―――!へぇ、他の奴なら解るけどヤングまで、ねえ。‥もっと興味出たかも』
「?何か言ったか?」
『んーん!何も。じゃあ迎え行かせるから大人しくしててね』
「‥嗚呼。最後に一つ良いか?」
ヤングの声が真剣な物に変わったのを確認して、電話相手は黙る。
「‥アンタの名前、まだ教えて貰えねえのか?‘青年さん’よぉ」
ヤングの質問に青年は携帯電話を握る力を強くする。
いつまで経っても返事が返って来ない事に疑問を持ち、問い掛ける。
すると数秒間の後に無線機から青年の声が響く。
『秘密~。じゃ、俺はまだ仕事が有るから、またね~』
ヤングからの返答も待たずにそのまま通信は切れた。
***
「俺、及川徹は何回目かも既に解らない程、驚いてる。
先ずついさっきまで屋上で争っていた筈の少女?が眼の前に立って俺を多分見ている」
及川は自分でもよく解らないが、状況を一人でぶつぶつ呟いていた。
混乱した頭を少しでも落ち着かせようと必死なのだろうが、其れは気休めでしかなく、帽子の人間に見詰められて更に混乱している様だった。
「‥ぁの、聞いてますか?」
「へっ?!ぉ、俺??ごめん!聞いて無かったッッ」
どうやら声を掛けられていたみたいだが、生憎余裕がなく耳に入って来なかった。
「ですから、一刻も早く‥此処から、離れた方が良いので、送ります。‥処置もしなくては、ならないので」
「‥‥。はっ、え?何の話?送る?誰が?誰を?処置って‥??」
一気に質問されてシオルは少し顔を顰める。
「‥詳しい事は後程話します」