第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
「んな顔すんなよ(口元しか見えねえけど)‥て言うかそろそろこんなとこに居たら奴等がまた新たに‘駒’を寄越すぜ?其れに下でアンタの大切な奴が待ってんだろ」
男に言われシオルは急いで頭の向きを戻す。
すると‘彼’が此方を見て凄い勢いで腕を振りながら何かを叫んで居た。
「‥‥近所迷惑です」
ボソっと呟き再び男達の方を見る。
「‥‥ぁの、別にあの人間は大切な存在では、無いです。‥其れに。‥そんなモノは存在しません、です」
「‥‥‥」
男達は黙って話を聞く。
「‥ですが‥、あの人は巻き込まれただけです。――ので、今後接触しないで下さい。‥後。本当にスミマセンでした。‥勝手に、逝かないで下さいね」
男達は一瞬眼を見開いたが、表情が和らぎ笑いに包まれる。
髭の男が代表として口を開く。
「ハハッ、アンタ良い奴だなあ。安心しろ、元々あの人質はセティーさんが勝手に決めた事で今回の任務には無関係だから手も出さねえし、報告もしねえよ」
男の話を聞いてシオルはゆっくり安堵の息を吐く。
その様子を見て髭の男はまた話し出す。
「‥だが、セティーさんは解らねえぞ?あの人は普段何を考えて行動してるのか誰にも解らないからな。もしかしたらまたアンタを捕らえる為に利用するかもな」
「‥させませんよ‥そんな事」
そう言うとシオルは宙に片脚を突き出す。
「‥サヨナラ」
そう呟き、今度はもう片方の脚を完全に宙へ運んだ。
シオルが視界から消えた事を確認した髭の男は自分の腰に巻き付けてるカバンから無線電話を取り出し、ボタンを押す。
すると直ぐに相手側が応答する。
「此方“黒兎”に雇われたヤングだ」
『ぷっ、』
「‥‥おぃ」
『あはは、ごめ、待って。ははっ』
電話に出た相手は一頻り笑うと咳払いをし、話し出した。
『だってさ、年齢の割にその名前ッッ、ははっ』
「‥切るぞ‥」
不機嫌なのを隠さずに言うと相手は慌てた様に言い返す。
『ゎ、待って!ごめんごめん。報告お願い』
「次また同じだったら抜けるからな‥。まあ、結果的に言えば失敗だ」
『‥ん~やっぱりそうなんだ~。‥ティ、セティーは?』
「何時もと同じで独断で行動してたよ」
『あはは。‥セティーは独断専行だからなあ。仕方無いかあ』
「そう思うなら替えてくれ」
『其れは無理』