第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
相手側は本気で疑問に思っているらしく、顔は見えなくてもシオルの事を見る。
そんな髭の男を一瞥し息を気付かれない様に吐き、立ち上がる。
「(‥そんな事、自分が一番知りたいです)」
声には出さず心の中で応える。
もうこの人達には用が無いと踵を返そうと視線を変える。
すると髭の男から質問される。
「‥もう聞かなくて良いのか?始末はしなくて良いのか?」
シオルは飛び降りる為に着地地点を確認しながら答える。
「‥聞きたい事はもう聞いたので。‥其れに何の情報も持っていない事も解りました。‥始末と言うのは、‥どういう意味です?」
「アンタなら解ってる筈だぜ」
「‥‥‥しませんよ‥、死にたいのですか?」
「――いいや。‥なら一つだけ」
「‥‥‥?」
「俺があの組織について知ってる情報。‥奴等はコード、つまり暗号の名前が有るみたいだぜ」
その言葉に反応したシオルは頭だけを動かし髭の男を見る。
「‥コード、‥名前‥ですか。‥その情報に偽りは?」
「負けたのに今更ウソなんてつかねェよ。ま、信じるかはアンタ次第だ」
「‥‥因みにその‘名前’を知っている人物は居ますか‥?あの組織の者で有れば誰でも構いません」
「あんま覚えてねえが二人居るぜ。‥〔フェルス〕と、‥確か〔セティー〕だ。ほら、さっきまでアンタが戦って居た坊主」
髭の男の最後の台詞を聞いてシオルは眉を潜める。
「‥さっき‥?坊主‥。もしかしてあの少年の事ですか?」
髭の男は只一度だけ頷く。
其れを確認したシオルはほんの少し首を傾げる。
「‥可笑しいですね(何方かが偽名、と言う事ですかね)」
黙り込んだシオルを見て髭の男は知ってるのは此れだけだと言い、切られたアキレス腱の応急処置をする為に自身の衣服の一部を破く。
「‥スミマセン。結構深めに抉ったので‥、もう立って歩く事は、‥‥出来ない、です」
俯きながらぽつりぽつりと声を暗い静寂の空間に響かせる。
すると明るい声がシオルの鼓膜に届いた。
「なぁーに言ってんだ。‥こうして生きてるだけでもスゲェ事なんだ、アンタは守る為に行動しただけだろ。気にするな!」
「‥‥‥‥は、ぃ」
シオルは帽子越しに髭の男の笑う顔を見て、肯定する事しか出来なかった。