第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
次々と飛んでくる銃弾を交わしながら最上階へと脚を動かすシオルは内心自分とティーセに対し疑問を浮かべて居た。
一つはティーセという少年。
何故戦闘中に態々人質を取ったのか。
人質を取ったとしてもティーセにメリットは0に決まっている。
シオルの知り合いでも無ければ仲間でもない、何の関係も持たない人物だ。
つまりは只の足手纏いにしかならない。
もう一つは自分だ。
無関係で有る筈なのに‘彼’に手を貸そうとしている。
今日の自分は何処か可笑しいらしいと客観的に考える。
「‥さっさと片付けますか」
そう言ったと同時に男達が居る屋上まで到達する。
男達はシオルに一斉に銃を向ける。
その時、下の方から叫び声が聞こえた。
「危ないッッ」
声の持ち主が巻き込まれた‘彼’だと解り、シオルは知らない内に振り返って居た。
そして‘彼’の顔を見る――と、とても不安げに此方を見上げていた。
「‥本当、今日は可笑しな日です」
そう呟くと高く跳ぶ。
余りにも速いスピードで男達にも及川にもシオルの姿が見えなかった。
そして男達が気付いた時にはシオルは男達の背後で袖の中から鋭い刃を持つナイフを取り出し、次々とアキレス腱を切り裂く。
腱を切られた男達は悲鳴を上げる事なくその場に膝を付き、苦しそうに唸る。
其の様子を腕を止める事なく横目で捉えたシオルは
呟く。
「(やっぱり、)――強くないですね」
その一言で最後の一人を跪けさせた。
「(‥恐らくこの人達はあの組織に雇われた駒に過ぎない。なら情報を持っている可能性は低い筈‥少し試してみますか)」
考えを纏めたシオルは一人の髭を生やした男の前にしゃがむ。
「‥今から幾つか質問します。先ず、貴方達は‘何処まで’知っていますか?」
其れにピクリと反応した男は、ジッとシオルの事を見る。
「‥‥‥詳しくは、知らねえ」
「‥‥そうですか。では知って居る事、全て話してくれますよね?」
そう言いながら髭の男の首元に刃を当てる。
勿論、殺気を込めて。
「‥なあ。アンタ何者だァ?」
「‥何の事です‥?」
グッと指に力を入れる。
「‥詳しくは知らねえ。が、組織がスゲェでかくてヤバい奴等が存在してるのは馬鹿でも解る。‥そんな奴等にアンタは狙われてる。‥何者だ?」