第3章 Ⅰ_突然は直ぐ眼の前に
問答無用で再び裾を捲り、背中の具合を確認をする。
「(強打して少し痣になってますね‥。痕が残っては困りますよね‥?よく解りませんけど)」
何故か着ているジャージとシャツを同時に捲り上げられ、更に視線をビシビシ感じ、どうしたら良いのか解らなく、眼を泳がす。
「ね、ねえ。何してるのかなあ?」
「えっと、スミマセンが僕が良いと言うまで動かないで下さい」
「へ‥?」
及川の疑問に答える事なく、シオルは空いてる左手の人差し指と中指を背中の中心に当てる。
「(‥んん。この位なら少しだけで―――、!)」
シオルは直ぐに裾を引っ張り、及川の身体を俯せに倒す。
「――ぐぇ、」
いきなり倒された及川は顎を強く打った。
舌を噛まなかったのが幸いだが、顎からも血が滲み出ていた。
何をするんだと聞く前にパァンと何かが破裂した音と声が同時に聞こえた。
「――帰ったのはティーセだけですか‥。何度もスミマセン、また巻き込んでしまいましたね。治療は終わったらしますので、少々お待ち下さい」
早口でそう言うとシオルは立ち上がる。
押さえられていた身体を解放されたので、顎を擦りながらシオルを見る。
するとシオルの眼の下に何かが掠ったのか、綺麗に切れて血が薄っすら流れて居た。
「――ねぇ、其れって‥、」
「‥まだ危険なので伏せていて下さいね」
そう言うと助走をしてビルに備え付けて有るパイプに脚を掛け、勢い良く上に跳び、壁を登って行く。
「‥ぁ、」
此処でやっと及川は今の状況を理解した。
先程まで小さな少年と帽子の人間が争っていた屋上に多人数の黒色のスーツを着た男達が拳銃を構えていた。
さっきの破裂した様な音は、拳銃の発砲音だった。
其れが及川を庇った為にシオルは新たな傷を負った。
「ぇ‥‥何で。此処って日本だよね?」
残念ながらその問に応える者は居なかった。