第9章 てるてる坊主の恋<猿飛佐助>
「これ…眼鏡?」
よくあるニッコリ顔のてるてる坊主は、眼鏡をかけている。こんなてるてる坊主、珍しいと思うけど…。桜さんの顔が赤くなっていることに気づいて、心臓が鷲掴まれたように苦しくなる。
「佐助くんの、顔のつもりで…」
「えっ」
俺の顔?改めて手の中を見る。自分だと言われると、急に可愛くなる…ような。
「ずっと、雨続きだったでしょ?前に、雨が降ると来るのが難しいっていってたし」
「うん、言ったね」
石垣も滑るし、体が濡れるから天井裏を這うのが難しいんだ。
「佐助くんが来ないの、すごく寂しくて。少し…落ち込んでたみたいなの」
どくん。
…え、何だ。
「雨が上がれば、佐助くんが来てくれるかなって…思って」
どくん。
心臓がうるさい。桜さんの可愛い声が、聞こえにくい…。
「雨の間は、てるてる坊主を佐助くんの代わりにと思って…顔、書いてみたんだけど」
どくん。
ああ…桜さんの顔が、これまでにないくらい赤くなってる。声も小さくなっていく。
「やっぱり…本物の佐助くんが、好き…」
もはや、消え入りそうな声で。それでも最後まで言い切った桜さんの顔を見て…思い知った。
俺は、俺が思う以上に、君のことが好きみたいだ。
てるてる坊主をそっと脇に置いて、代わりに桜さんの腕をつかんで引き寄せる。