第17章 温泉旅行へ*2日目午後編*
滝つぼを後にした二人は、先ほどの分かれ道まで戻って、左の道へと進んだ。太陽はもう夕日へと変わりつつある。
無心に道を上りながら、桜は心がすっきりしているのを感じていた。
無意識に気負っていたのだろう。大事な彼らからの想いをいっぺんに受けて、すぐに答えが見つかろうはずもないのだ。信長の言葉で、桜の心のつかえが取れた。あとは、答えを探すだけ。
「桜、どうした」
あまりにも黙ったまま歩いているのを気にして、信長が振り返る。大丈夫です、と答える桜の顔は、迷いなく晴れやかだ。
「着くぞ」
目を細めて桜を見た信長は、ふいと前を向いてそれだけを告げた。
大した距離を上って来たわけではないけれど、周りにさえぎる物のない小さな山の頂上。染料をぶちまけたような、鮮やかな橙が風景を染めている。
「綺麗…」
桜は、ほう、とため息をついて見惚れる。しかし、横に立っている信長が、何の言葉も漏らさないことにハッとした。
「信長様は、興味をお持ちでないですよね」
「ああ…だが」
夕日を背にした信長が、桜を見降ろしふっと笑う。大きな手がくい、と桜の顎を掴む。
「夕日を愛でる貴様は、何よりも美しい」
「…っ」
息をのむ桜の腰に、信長の手が回る。気付いた時にはすでに、重なった唇が離れた後だった。