第17章 温泉旅行へ*2日目午後編*
じわりじわりと、桜の頬が染まりだし、夕日よりも赤くなった。獲物をとらえる獣のような、熱のこもった目で、信長は桜をじっと見る。
その瞳から目がそらせずにいる桜の髪をさらりと撫でると、前髪にも優しく口づけを落とす。
「…これより先は、止めておいてやる」
唐突に。信長はそう言うと、桜の腰を抱いていた手を離した。
これ以上は、戻れなくなる。
信長は、意思に抗って桜から離れ、視界から消した。
夕日を見るように振り返った信長が、今どんな顔をしているのか、桜からは見えない。けれど、口許を覆う手が隠す頬が、少し染まって見えるのは、夕日のせいだろうか。
「信長様、連れてきて頂いて、ありがとうございます…」
甘い沈黙に耐えられず、自身の緊張も誤魔化したくて、桜はそう呟いた。
「貴様が望むなら、何度でも連れてきてやる」
目だけを桜の方へ向け、そう返事をした信長。
その後二人はまた無言になって、沈んでいく夕日を眺めていた。