第17章 温泉旅行へ*2日目午後編*
「…綺麗ですね」
「ああ、見事だ」
信長は桜の前にだけその菓子を並べて、湧いた湯を使って茶を点て始めた。刀を振り回すためのそのたくましい腕で茶を点てる信長の所作は、丁寧でとても絵になる。
間もなく、ことり、と桜の前に茶碗が置かれた。作法なんてどうでもいい、と前置きして。
「飲め」
「いただきます」
温かく、苦みのある抹茶をこくりと飲む。良い香りが鼻から抜けて、心からほっとする。
「美味しいです…!」
「当然だ。誰が点てたと思っている」
にやりと不敵に笑って、信長は自分でもぐび、と飲む。満足げに頷く信長を見つつ、桜は菓子にも手を伸ばした。上品な甘さが、口の中の苦みとよく合って美味しい。
「お菓子も美味しいです」
「そうか」
滝つぼのほとりに座る二人。さわさわと風になびく木々のざわめきと、揺れる木陰、滝の音。自然の音だけを聞きながら、しばし無言で茶を味わう。
すごく贅沢なことをしていただいてるな。
美味しいお菓子を食べて。ふわふわとした心地いい気分に浸っていると、膝に重みを感じて下を向く。
「信長様?」
「しばし休む」
勝手に桜の膝を枕にした信長は、それだけ言って瞳を閉じた。
「はい、ごゆっくり」
お茶も点てていただいたし、これくらいは。
力を抜いて寛いでいる様子の信長に、くすりと笑みがこぼれた。