第17章 温泉旅行へ*2日目午後編*
道が平らになって、信長は桜を降ろす。手を引かれ、木々の間を縫っていくと、ぽっかりと開いた空間に出た。
どどど、と水が流れ落ちる音が響き、大きくはないもののしぶきを上げているのは、滝。滝つぼの周りだけ空が見え、光が降り注いでいる。
水分を含むひんやりとした空気が満ち、桜の少し汗ばんだ体には心地よく感じる。
「気持ちが良いですね」
「ああ」
滝に近づいて深呼吸する桜を尻目に、信長は足元を確かめ、より平坦な場所を探していた。
「…?」
何をしているのだろうと見ていると、信長は持って来ていた荷物をごそごそと漁り、ばっと布を広げた。
さらに取り出し、布の上に並べたのは茶を点てる道具。茶筅、茶碗、それに鍋釜。水を鍋釜に汲んでくると履物を脱いで布に座り、手際よく火を起こす。
「好きにしていろ」
「はい…ありがとうございます」
桜のためにお茶を点ててくれるつもりらしい。道具まで持って来てくれた信長の気遣いに、頬が緩む。
「何をにやついている」
「信長様がお茶を点てて下さるのが、楽しみなんです」
「貴様の好きそうな甘味もある」
「ほんとですか?」
嬉しそうな桜の声に表情を緩めながら、信長は小さな重箱を取り出した。いくつかの生菓子が綺麗に並んでいる。
桜が政宗と食べた生菓子は可愛かったけれど、今回のそれは花を模した繊細な細工が施され、上品で優美だ。