第17章 温泉旅行へ*2日目午後編*
それから再び山道を行くと、分かれ道に出た。左の道は今までと同じように道が続いていて、緩やかに上っている。右の道は脇道のようで、下りではあるものの良い道ではない。
「こっちだ」
迷いもなく、右の道へと進む信長。下りている道を行くことに疑問を覚えるけれど、桜も大人しくついていく。
道は生い茂る木々のせいで暗く、湿った落ち葉が積もり、岩もごろごろと横たわっている。信長が手を引いてくれているけれど、着物のせいであまり大股になれない桜は、足元を見ながら少しずつ進んでいくしかない。今にもつるりと滑ってしまいそうだ。
「…来い、桜」
「え…わっ」
信長のたくましい腕が伸びてきて、そのまま肩に担がれた。視界には信長の背中しか見えず、咄嗟につかまる。
「じ、自分で歩けますからっ」
「面倒だ、こっちの方が早い」
さっき自分の身は自分で運べって言ってたくせにっ。
「お、重いですし!」
「軽い」
騒ぐ桜など意に介さず、ひょいひょいと山道を下りていく信長。その振動を感じながら、ふと思った。
あ、くすぐり放題だ。
「…桜」
「はい!?」
「今妙な事をしたら、放りだす」
「し、しませんっ」
カンの鋭い信長に冷や汗をかきながら答える。まあもしくすぐったら、どっちにしろ桜は放りだされるだろうけれど。