第17章 温泉旅行へ*2日目午後編*
「こんな所でいつまでもじゃれ合っている暇はない」
信長は山道を進み出す。自分からちょっかいを出し始めたくせに、と思う桜だが、口には出さない。
信長は桜の歩調に合わせて歩き、足元の悪い所では手を引いた。余計な言葉こそないものの、絶えず桜に気を配るその所作に胸がときめく。
我ながら現金だ…。
「桜、少し休め」
「はい。ありがとうございます」
大きく平らな岩を選んで、二人で腰を下ろす。水を入れた竹水筒を渡してくれる信長に礼を言って、ありがたく喉を潤した。
「上まで登るんですか?」
「そうだ。途中、少し寄り道するがな」
「寄り道…?」
首を傾げる桜に、信長は笑って答えない。着いてからのお楽しみ、ということだろう。
「あの…荷物、重くはありませんか?」
今更だけど、と思いながらも、桜は信長の持つ荷物を指す。何が入っているのか分からないけれど、持たせてしまっていいのだろうか。
「こんなもの、重さの内に入らん」
信長は荷物を一目見てから、それより、と桜を見る。
「貴様は、自分の身をしっかりと運べ」
「はい。…頑張ります」
力強い返事に、信長は口元を緩めて、良し、と頷いた。