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第28章 少女のいる世界


唇にキスは、できなかった。

今の蝶には、してはいけないと思ったから。
嫌になったわけでも、受け入れられないわけでもない。

本当は、愛したくて愛したくて仕方がない。
けれど、彼女は今それ以外に不安でいっぱいなんだから。

俺が手を出して、これ以上混乱させちゃいけない。
前の時とは話が別で、今回は自分自身のことから思い出していかなきゃならないのだから。

浦原さんの話では、どれくらいの期間がかかるかは分からないが、核の性質もあって、しばらくすれば徐々に思い出していけるはずだとのことだった。

そもそも記憶が一時的に飛んでいるのも、核が元の四分の一になっているため、最低限のものから蝶の身体を構成し直すと、どうしても一度に全ては戻しきれなかったからだそうだ。

身体はそのまま直したが、蝶の力…それから、知識。
潜在的なものや先天的なものは、なくてはならないものだと判断された。

だから、そのまま蝶は存在を保てている。
しかし、存在をそのまま保つためには、少々容量が足りなかった。

だから、時間をかけなければ完全に戻しきることはできない…しかし逆に考えれば蝶の核はすごいもので、時間さえ過ぎれば、元の四分の一の力でも、蝶を元に戻すことができる。

首領と話した結論はそうだったそうだ。
だから、俺も蝶も、それを待ってゆっくり…徐々に元に戻っていけばいい。
急かさなくたって、あいつは何も変わっちゃいないんだから。

だから、急かさないようにと…蝶に手を出すのをこらえろと、自分に言い聞かせるしかないのに。
あの少女は、それを軽々と壊しにくる。

普段の部屋着を渡さなかったのだってそれを考えてのことなのに、結局上しか着てこなかったものだからもうそこは俺が耐えるしかない。

長袖の寝間着になると、蝶がどうしてもと駄々をこねるから、俺のシャツを…それ一枚だけを身にまとって、二人で寝るのがいつもだから。
けれど、二人でなんて…今日知ったような男と、二人で同じ布団で寝るだなんて。

させられるかよ、そんなこと。

一人悶々と、ベッドの中で目を瞑って蝶のことばかりを考える。

そんなことをして、焦らせて怖がらせて…あいつを泣かせるよりは、これくらいの距離は置いていた方がいい。

『…ッ、ク……っ』

ほら、あいつの泣き声だけでも、胸が引き裂かれそうになってくるくらいなのに…



泣き声…?
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