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第28章 少女のいる世界


中也さんが脱衣所から出てきたのを察知して、布団に入って寝ているふりをした。
捩摺はすぐに姿を消し、しかし私の部屋を覗いた中也さんが、寝ているはずの私に声をかけたのだ。

「蝶…寝たふりするんならもう少し上手いことやれよ?…リビングの電気消すから、こっちちゃんとつけとけ」

なんて言いながら、近くにあったライトをつけ、ほのかなあかりを灯す彼。
それから私の頭を撫でて、一言おやすみ、と口にしてから部屋を出ていき、隣の部屋に入っていった。

…なんで、バレた?
どうして、気付かれた?

気付かれることなんて滅多にないのに、見破られた。
真子や喜助さん並の変態じゃなきゃ、そんな…いや、変態なんだっけか。

変態……の割に、何もしてこなかったけど。

ふと振り返ると、リビングの明かりが消えていた。
そして、ライトの光を見て、胸が一気にしめつけられる。

もし、あの人が…私の事を私以上に理解している人だとしたら。

無駄に電気を走らせるのは、なんて思って消そうとしたのに、消す勇気が持てなくて、ようやく思い出した。

ああそうだ、私、暗いところが大っ嫌いで。
…ひとりぼっちで眠るのは、本当に本当に怖くって。

マユリさんや阿近にお願いなんか出来なくて、かといって頼めそうな人が他に…会えるような人がいたわけでもなくて。

そうだ、私いつも、捩摺に寝るまで一緒にいてもらってた。
寝た後にも、そこに誰もいないのが怖くて怖くてたまらなくて、捩摺をずっと離せなかった。

『…も、じ……ッ』

呼ぼうとして、やめる。
さっき、自分で言ったばかりだから。

捩摺は、呼んじゃダメ…何とかしなくちゃ。
頑張らなくちゃ。

何とか…しないと、いけないのに。

泣くな…泣くな、なんで泣くんだ、こんなことで。
あとは寝るくらいのことじゃあないか、寝て起きたら朝が来るんじゃないか。

…本当に?
一人で眠って起きたって、夜の闇はずっと深くて、ずっとずっと長いのに。

朝が来ない場所だってあるのに。

…いや、ここは違う。
私だって、今は蝶という名前で。

誰に、付けられたんだろう、この名前。

なんで受け入れたんだろう、新しい名前なんて。
私には、大事な名前が二つもあるのに。

…なんで、ここまで自分のことを思い出してるのに、蝶のことがわからないんだろう。
どうして中也さんのことが、わからないんだろう。
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