第28章 少女のいる世界
話を整理していけば、私が覚えているのは…自分が尸魂界から追い出されて、世界を飛び越えたところまで。
中也さんは…中也さんどころか、ポートマフィアで出会った誰もが、私の記憶の中にはない。
『…なんであんたのこと見て、思い出したんだろ』
「そりゃあ俺は姫の魂の一部だしな。後考えられるとすれば…まあ、単に一緒にいた年季の差じゃねえの?言っても俺は、お前が出会ってきた誰よりも長く一緒にいたはずだし」
確かに、喜助さんと過ごしてきたその日々よりも、ずっと長く一緒にいた。
私の心の支えも、理解者だって…海燕さんもいない今、捩摺だけのようなもので。
『……ねえ捩摺、私のわがまま聞いてくれる?』
「だいたい想像つくから嫌だって言いてぇんだけど?…いいよ、聞いてやる。俺にしかお願いできないんだろ?また」
『ん。…私の記憶がちょっと戻ったってこと、誰にも言わないで』
「…理由くらいは聞かせろ、お人好し。阿呆。馬鹿」
『散々な言い様ね…察しはついてるんでしょその言い方、私なんだから』
「まぁな」
自分の能力で、取り戻せないだろうか…いや、少し抵抗がある。
脳ばかりは…いじるのが、怖い。
それに、いじっている最中に満足に能力が扱えなくなって、本当に記憶というデータそのものが消えてしまう恐れだってある。
やるなら、喜助さんに頼めば、能力を扱うのが彼になるからなんとか…
しかし、それはしたくない。
自分で…思い出さないと意味が無い。
「んで?今はなんでそんなに泣きそうになってんだよ」
『…別になってない』
「口付け拒まれたのは、あっちが気を遣っただけのことだと思うぞ」
『…』
分かってるんじゃない、私よりも。
チクリと胸が、痛くなる。
なんでだろ、自分が一番知ってるって言いたいのに、何も知らないの、彼のこと。
『私、何も覚えてない』
「そうだな。間抜けだから仕方ねえよ」
『……髪、元の長さに切ろうかな。長すぎない?』
「いいのか?お前…中也が綺麗だって言うから、真子みたいな髪にってそこまで伸ばしてんのに」
確かに、昔の真子の髪は…あんなに綺麗な髪は、後にも先にも見たことがない。
『綺麗?…私の髪が?』
こんな、色。
蔑まれてきた、色。
…これが黒くなったら、中也さんは…どういう反応をするのだろう。
気味悪がられて、しまうんだろうな。