第28章 少女のいる世界
着せられた“彼の部屋着”は、あたたかいのにどこか味気なかった。
話をするのは明日にしようと提案され、今日はもう遅いから先に寝ておけと言われて…自分の寝室に案内される。
覚えがあるわけではないけれど、どことなくいても違和感がないから、自室というのに何も疑いは生じなかった。
しかし、お風呂に入ったためそこに中也さんがいなくって…私は素直に感じてしまったのだ。
『…寝たく、ない』
ぽつりとこだました声は、すぐに消えてなくなった。
おかしい、自分の部屋なのに。
自分のベッドに自分の枕、自分の布団…
なのに、そこに貴方がいない。
貴方のあたたかさを何も感じない。
おかしい…確かに、自分のものなのに。
しかしそこで、ベッドの隣に立てかけられた一本の刀に気がついた。
そして、何故だかそこへ歩いていって…それを手に取ったその瞬間のこと。
蒼い光に包まれ、それに目をつぶって。
「…やっとお目覚めかよ、遅かったな」
男の人の声がして、目を開ける。
するとそこには、中也さんでも他の誰かでもない、初めて見る男の人。
なのに、知ってる…私、知ってる。
この人のこと。
『か、いえ…ッ?…違、う……違、くて…っ、!』
名前が出かかってる。
こんなの初めてだ…どうしてだろう、頭の中に、目の前の人物と一緒に、浦原さんや…色んな人が、見えてきて。
「記憶、ないんだろ?無理しなくていい、こうやって会えただけでも、十分嬉し『捩、摺……!!!』…、っ…え、お前…!?」
『…っハ、…なめんじゃない、わよ……あんたの主を…っ、私を誰だと思…ッ、ぁ…っ、なん、で私、忘れて…』
思い出した、自分のこと。
自分の、斬魄刀のこと。
尸魂界のこと、浦原喜助のこと。
白石澪、そして紅姫のこと。
ふらついた体を捩摺に抱えられ、ベッドの上に座らされる。
しかし、思い出せた事を認識していくのに必死になっていて、随分と時間が経って初めて気がついたのだ。
そこに、中原中也という存在がいなかったことに。
中原…白石、蝶という存在が、なかったことに。
『……っ、な、んで…!?なんでッ…!!!わ、たし…っ、思い出してるのに、なんで分からないの…!!?』
「!思い出したって…最後の記憶は!?」
『最後って、…捩摺が折れ……?…あれ、あんたなんで元に…しかもその下まつ毛…』
「それはいいだろ…」