第28章 少女のいる世界
『…おなかいっぱい』
「ダーメ、あと少しだろ」
『も、盛る量が多かったから』
「じゃあ仕方ないから捨てることにす『一時間したら食べるから…ッ』お前流石にそれは寝てくれ」
『す、捨てるなんてそんなのダメ!』
入りきらない分を皿の上に残したまま、先程からこんなやり取りばかり。
驚く程に食べるのに抵抗がなかったご飯だが、量を食べられるわけではない私は悪戦苦闘していた。
ただ、普通の一人前でも馬鹿みたいな量に感じてしまう私にとっては…少し多いと感じるくらいのものだった。
彼が取り分けた、彼のご飯は成人男性のそれよりも多くて、すごい量だと思ったのに。
私の分は、ちゃんと無茶じゃないような量にしていてくれて。
…捨てられるはずないじゃない。
折角貴方が、私のために作ってくれたのに。
「あー、じゃあ俺が食べさ……、いや、じゃあ俺が食べようか?初回サービス」
『……嫌』
「嫌なのかよ!?…なんで?」
『私にって作ってくれたから、私が食べるの』
ただ、今は無理。
絶対に無理、食べるとか食べないとか、最早そんなレベルの話じゃない。
「んな事言ったって、俺はまだ食えるからな…家に着いたのがこんなに遅い時間じゃなけりゃまだ良かったんだが、お前これくらいの量食べさせとかないと胃が小さくなる一方だし」
一応、この二週間弱で胃が収縮していることを考慮した量なんだとか。
お互いに。
しかし、そんなことを考えての“少し多めの量”だとは思わなかった。
そこまでわざとだっただなんて。
『だから、起きときますから』
「寝かせるに決まってんだろんなもん、お前はまだ若いんだ。若いうちの睡眠はちゃんとしとくもんだぞ?」
でも、と渋る私に、中也さんは軽いため息をひとつ吐く。
それに体が硬直した。
やっちゃった…ただでさえ迷惑ばっかりかけてるのに。
この人のこと困らせて、呆れさせちゃった。
『……ごめんなさ、い…た、べます今』
「!何言ってんだよ、元々食べんの苦手なのに」
『食べれます、よ…食、べ…ッ』
おかしい、毒が仕込まれてるわけじゃないのに。
何か入ってるわけでも、企まれてるわけでもないのに、嫌なものが頭に過ぎる。
あれ、私どうやって食事してたんだっけ…いや、私がしてたのって…
食事じゃなくて、栄養摂取か……毒物漬け…?
箸を、テーブルに落としていた。