第28章 少女のいる世界
何かぽっかり空いていた胸の奥が、満たされる。
あ、私、そう言ってくれる人のことを待ってたんだ。
そう言ってくれる人が、欲しかったんだ。
どうしよう、なんで涙が止められない。
まただ、この人のことを考えるとまた…また?
「それに、いい加減お前に貸しっぱなしだと、俺が自分の分を新調しなくちゃいけなくなるんだが?その外套」
『!!!…え、ぁ…こ、れ…貴方の…?』
「…貴方?やり直しだ」
『…中原、さんの?』
言い直したのに不服そうな顔。
反応は無い。
しかし、私からしても違和感があるのだからそれもそうなのだろう。
『……中也、さん』
「…おう。その外套、どうしたい?まだ羽織っときたい?」
チラリと覗けば彼がこちらに寄ってきて、少し屈んで目線をこちらと合わせてくれる。
あ、これ好き…安心する。
こんなに真っ直ぐ私のこと見てくれる人が、いるなんて。
外套を握る手を少し力ませてから、コク、と一つ頷いた。
すると彼は困ったように笑って、私の頭を撫でたのだ。
「プッ、…仕方ねぇ。好きなだけ着てていいよ、そんなんでよけりゃ……よく見つけたなぁ、誰かに持ってきてもらったのか?」
『…建物の中歩いてたら、部屋があって……中に入ったら、安心したの。そしたらこれがあって』
「安心した?…まあ安心なんか出来ねえわな」
『……私の居場所だって、初めて感じた。これ着てるとね、私…生きててもいいんだ、って…なんか…』
次々と、言葉が溢れてまとまらない。
あれ、何が言いたいんだろう私…何を伝えたいんだろう。
この人に、何を言いたいんだろう。
いつの間にか彼の腕に包まれていて、私は椅子に座っていた。
あったかい…あったかい。
私、今生きてるって感じてる。
ここだけは、私の居場所なんだって実感してる。
「何言ってもいい。俺しか聞いてないから…ほら、なんでもいい。全部吐き出しちまえ」
『!!っ、…分かんなくて、何も…!わた、し…誰なのかも、何なのかも分かんなくて、私の事迎えに来てくれたのだって…ッ、貴方が初めてで…ッ』
「うん…それから?」
『どこにいたらいいのか、分かんなかった…どこに、行ったらいいんだろうって…』
この中だけだった。
この、黒い外套の中だけだった。
私を満たしてくれたのは。
私が、安心できたのは。