第22章 云いたかったこと
実際に殺してしまうのには五分もかからなかった。
それよりも、それらを全て…うまく能力の事をはぐらかしながら報告書に仕上げる必要がある。
そこで五分は時間を使う。
そしてそれらを、うまく実行日を調整しなければ…中也さんの休みに合わせられない。
己の持つ計算能力とシミュレーション力を駆使して提出する日時まで考え尽くし、それから…
潰した組織を誰からも悟られぬよう、迷彩付きの壁で囲ってから。
気力だけで戻ってきた。
意識なんてものはもうハッキリしていなかったけれど…それでもちゃんと、戻ってきた。
『…っ、森さ……』
「!!?もう戻ってき…っ、蝶ちゃん!?どうしたの!?…蝶ちゃん!!?」
『……、少し…寝ま、す…』
疲れてしまった、色々と。
久しぶりの感覚にも…
____足りない血液にも。
中也さんの楽しみを私が潰してたまるものか。
初めて…中也さんが、楽しみにしてくれているのに。
こんな私にだって、その手伝いができるかもしれないのに。
脳裏を過ぎった彼の笑顔は忘れられなくて。
しかし私は、少し前にしていたはずだった彼との約束を忘れてしまっていたことに気がついていなかった。
分かっていなかった…頭が回っていなかった。
この世界にただ一人だけ、私に血液を提供出来てしまう人間が存在していたことに。