第22章 云いたかったこと
「とりあえず、森さんに事情は話したぞ…大方の事も聞いた。…だからこそちゃんと食え…あいつの目が覚めた時に、お前が元気無かったら…」
『…っ、い、いの…私、と一緒にいない方が…いいの…ッ』
「……お前と一緒にいる事が、一番幸せだと言っていなかったか?中原は」
それはこれまでの話であって。
言い返す気力もなかった。
部屋に漂う紅茶の香りに嫌気さえさしてくるほどで。
「…いいから。今日は俺が保護者代理だからな…ここに来たからには、保護者の言うことは聞くことだ」
『……聞かなかったらどうするつもり…っ?弱みでも握って脅してるの?…いいわよ、煮るなり焼くなりされたところで、ッ…別に、痛くも痒くもない…』
化け物なんだから。
最後までは言えなかった。
口にするのが怖かった。
怖くて怖くて堪らなかった。
痛感してしまったから…ああ、やっぱり中也さんは、普通の人なんだって。
わかってはいたけれど。
一緒になんかいちゃいけない…こんな化け物のために、あんな思いしなくていい。
「そんなわけあるか…痛かっただろ。嘘つくな」
『痛くなんかない…こんなの、私からしてみれば擦り傷くらいの「まだ震えてるくせして、何が擦り傷だ」…っ』
「…撃たれれば誰だって痛い。そうだろ…特別痛がりなくせに」
『……痛くなんか…っ、わ、たしなんか…』
中也さんの方が痛かった。
普通の体の中也さんの方が、私なんかよりもよっぽど。
こんな身体、撃たれたところで何ともないの。
どうせすぐに治っちゃうんだから。
それよりも、あの人があんな怪我をする方が大事で…あってはならなかったことで。
けれどもそれは、ほかの誰でもない私のせいで。
「…それを言うと、あいつはきっと悲しむぞ」
まただ…森さんにだって言われたことがある。
中也さんが、悲しむ?
『笑わせないで…もう、顔だって見たくないわよ……こんな奴』
「……また顔を見たかったから、無謀でもお前の事を護ろうとしたんじゃなかったのか?」
『私のせいで傷ついてるじゃない…今だって、死んじゃってたかもしれな……ッ、ぅ…』
吐き気を催しても、なにも出てこない。
背中に触れた織田作の手をパシ、と手で払い除ける。
…最低な奴。
「…話ならいくらでも聞いてやれるから。とにかく飲め…何をしたのかは知らないが、脱水症状になりかけてるだろ」