第18章 縁の時間
私の中で生まれた、とある仮説。
もしもそれが本当にそうなのであれば…なんということだ。
いや、しかしそれならば頷ける…納得がいってしまう。
「今と同じ、髪に……黒…黒い服……っ、着物…?」
『……その人は何か…持ってる?あなたを治すために、何をしたって言ってたっけ』
「…何って、手をかざして何かを呟いて……!いきなり目の前に現れてから、そんでまたいきなり消えて…」
私の中では息絶えたはずの青年の記憶。
違う、確かに息絶えた…否、絶えそうになっていた。
それなら知ってる、多分“ある”。
私が傷を治すために“その手法”をとったのなら…彼の言う記憶が、“今の肉体ではない”身体の時のものなのだとしたら。
“私についてきてしまっていた”のなら。
こんな偶然がある…?
こんな奇跡がある?
私についてきた黒い蝶…あれに宿った……“宿ってしまった”魂が、この世界で“転生してしまった”…?
それなら全てに納得がいく。
稀にあるのだ、極めて稀に…私もそのタイプの人間だったから。
死後の世界においても、生前の記憶を持っているままの人が。
私の場合は魂の器…それも奇妙な奇妙な特別製のものがあったから、そんな事にはなり得なかった。
そして今まで私が訪れてきたどの世界にも、私の力を扱うエネルギーが大気中に一定量以上漂っていたから…魂のままでもついてこられた。
魂のままで存在していられた。
しかしここではそうはいかず、あの世界における魂と同じ成分であるそのエネルギーが、ほとんど存在していない…私のように器がなかった魂は、器を作らなければならなかったのだとすれば。
こんなに都合の良い話に捉えてしまっていいのだろうか?
こんなにも信じ難い話があるか、一体どれだけ少ない確率で起こりうる事態なんだ。
それなら私と身体の“質”が同じだとも頷ける。
それなら血液も固まらない…それなら血液が拒まない。
私と何百年も一緒にいたのなら……それなら、普通の身体と一緒に、私の身体の質を記憶した上で器を作った可能性だってあるわけだ。
まさにあの青年の言葉通りに……“私のために”生まれてきたとでもいうような…
痛みが引いたのか、中也が手を頭から離す。
「…………悪い、これ以上は…無理だ、分からねえ。ただそれだけは覚えてる…俺はお前に…」
『…そっか。……うん…“ありがとう”…』