第18章 縁の時間
それは突然のことだった。
私の身体からスウ、と出てきた、真っ黒な蝶。
いや、それだけじゃない…それだけの事なら、私がこんなに理解出来ないはずがない。
『な、んで……“二羽”、いるの…?』
それも片方は中也の身体から、私の身体から出てきた蝶に引き寄せられるようにして出てきたのだ。
ますます訳が分からない、どういう事だこれは。
「は…?……は!?こいつ今俺から…!?」
二羽の蝶がひらりと舞って、そこに手を伸ばすとまた透明になって消えていった。
『なに……今の………中也…っ?』
「!…さっきのは……お前も知らねえのか?」
『…………知らない、けど…あの蝶がなんで中也に…っ?』
______ありがとう…いつか、今度はきっと俺が…お前のために……___
頭の中に流れてきたのは、男の人…否、青年のそんな声。
そして、目の前の愛しい人にそっくりな雰囲気の…息絶える寸前の姿。
頭に手を当てて思い出す。
いつだ?
いつのものだ、これは…?
“この世界のものじゃない”、何故ならその青年はもうこの世にはいないから。
何故なら私が最初の世界にいた頃の記憶なはずだから。
思い出せそうで思い出せない、ずっとずっと昔の話。
「蝶…?」
『!!……あ…ごめん。……中也ってさ、私に“初めて”出会ったの、いつ?』
「あ?お前の記憶が確かならあの日だろ…俺としてはまあもう一つ心当たりがあるわけなんだがな?」
『それ…いつの話?』
私と中也のやり取りについてこれない首領は、真剣な目をこちらに向けて様子を伺っている。
しかし、そこに意識を割けない程度には私も中也も動揺してた。
「いつって、俺がまだ餓鬼の…『その時私、どんな格好してた?…その後中也は、どうなった?』は…?んなもん、俺はとっととお前を探して、夢なんじゃねえかと思いつつお前の事を探って…」
『その相手と中也の年齢もどれくらいかは聞いたし分かってる。そうじゃなくて、相手の格好…どんな服着てた?……何か身に付けてたものに特徴的なものは___!!?』
そこまで声にした途端に、ガタッと中也がベッドに手をついて崩れそうになる。
苦しそうに頭をおさえて、冷や汗を流しているような。
「は…?いや、待て……なんだこれ…頭、痛ぇ…ッ」
『ご、ごめん!!変なこと聞いた!!!いい…痛いなら忘れて?私も…やめとく』